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「…ッ!…が…ッ!!」 「…ふにゃ……うるさぁ~~い…!」 明け方妙に音がするので寝起きが壊滅的に悪いルイズですら目を覚まし音源の方向を見る。…見たのだが、ヤバイものを見た。 「グレイトフル・デッ…」 「ちょ、ちょっと!なに寝ながら危ない事口走ってんのよ!!」 「……クソッ…!またか…」 広域老化発動ギリギリで起きたプロシュートが頭を押さえながら壁に背を預ける。 全身から嫌な汗が流れ気分も最悪というところだ。 「凄いうなされてたけど…大丈夫なの?」 「ああ…」 生返事はするものの、最近例の夢を見る頻度がかなり高くなってきていてヤバかった。 (あいつらは地獄から人を呼びつけるようなタマじゃあねぇんだがな…) 原因の検討は付いているがその手段がいまのところ存在しないのが問題だ。 「こいつはダメだな…」 結果がどうあれ、イタリアに戻りそれを己の目で確かめないことには、この夢は消えないであろうという事も。 「…邪魔したみてーだな。寝直す気にもなれねぇ…外に出てくる」 「ま、待ちな…!」 それを言い終わる前に先に外に出られた。 「もう…最近調子悪そうだし…もしかして、病気にでも罹ったんじゃないんでしょうね…」 「俺が見る限り、どっちかっつーと精神面みたいだな」 鞘から少しだけ刀身を出したデルフリンガーが答える。 「精神面?プロシュートが?…ダメ、とてもじゃないけど想像できないわ」 「んーそういう柔な理由じゃなくて、イタリアってとこにスゲー重要なやり残した事があるんだろうな」 イタリアと聞いて思い当たる事はあった。 「んで、それが夢か何かに出てきてあんな風になってるってわけだ」 「そういえば…ラ・ロシェールの宿屋で仲間が命を賭けて闘ってるって言ってた」 「そりゃあ戻りてぇだろうなぁ…」 イタリアに戻る…その言葉に戸惑う。 今のところ戻る手段は見付かっていないが、見付かればプロシュートはどうするのだろうか。 迷わずその手段を用いてイタリアに戻るのか…それともここに残り使い魔としていてくれるのか。 今のルイズの心情は非情に複雑だった。 フーケやワルドに殺されそうになった時も自分が見失っていた道を照らし出してくれたような気がしたし シルフィードの上でプロシュートが気を失って自分に向けて倒れてきた時も何故か安心感があった。 確かに、かっこいいところはある。ボロボロになりながらもワルドから助けてくれた時や、自分の魔法を信頼してくれた所も。 「…もしかして兄貴に惚れたのかぶらばァッ!」 デルフリンガーの刀身目掛け爆発を起こしとりあえず黙らせる。 「そ、そんなんじゃないわよ!たた、確かに頼りになる所もあるし何回も助けてもらったけど!考え方が妙に物騒なのが問題よね…誰にでも遠慮しないし」 初対面のキュルケや、今は亡きギーシュ。そして姫様にすら容赦しなかった。 「メイドの娘っ子と馬で出かけた時に俺をハムに刺しといてよく言うわらば!」 「だ~から!好きとかそんなんじゃないつってんでしょ!」 「…じゃあなんなんだ?」 「分からないけど…こう…」 「こう?」 「結構頼りになるし…『成長しろ』…とか言ってくれるし……年上の…兄妹…みたいな…」 「あー、つまりアレか。『お兄様』って呼びたいわけダッバァァァァアア!」 三回目の爆破によりデルフリンガーの口を封じる。 「し、知らないわよ!わたしだってエレオノール姉様とちぃねえ様しか姉妹が居ないんだから!!」 そう叫びベッドに潜り込んだが心臓の鼓動音がやたら大きく聞こえて中々寝付けなかった。 (イテェ…本気で折れるかと思った…しかしまぁ…俺も『兄貴』って呼んでるから分からないでもねぇが) 「戻る方法が見付かってるわけでもなし…八方塞ってやつか」 日が出て明るくなってきた頃、プロシュートが一人庭を歩いている。 「ジジイが30年前に会ったヤツは…どうやってここに来たんだ…? 使い魔としてなら本体ってわけじゃねぇが呼び出したヤツも……いや、オレが良い例だな。常に行動を共にしてるとは限らねぇ」 そうして思考の渦に漬かりきっていたので後ろから近付く気配に気付けなかった。 「わっ!」 「ハッ!?………向こうじゃ攻撃されてんぜ…オメー」 「この前、驚かされたお返しです」 後ろからシエスタが大声で驚かすという古典的な手段だったが、一瞬列車内でブチャラティに奇襲された事を思い出し攻撃しかけそうになった。 が、スタンド使いは居ないと認識していため何とか踏みとどまる。 「で、わざわざオレを驚かせるためだけに、こんな朝っぱらからきたってわけか?」 「あ!いえ…お洗濯物を洗いに行くところでお見かけしたので…その、この前のお礼もしてませんでしたし」 「礼される事をした覚えはねーな。アレはモット伯と護衛のメイジの問題なんだからよ…」 その言葉には『バレるからあまり話すな』という意味が含まれているのだが、そこは一般人であるシエスタ。謙遜してるようにしか受け取れない。 「そんな!助けていただいたのは事実ですし、もう少し遅ければ………」 モット伯に胸を揉まれていたことを思い出すと赤くなり口ごもると同時にゾッとした。後2~3分遅ければ洒落になっていなかっただろうから。 俯き加減にもじもじしながら何か小さく言っているが、このまま待っても時間がかかりそうだったし何よりまぁ言いたい事もあったのでとりあえず軽く一発叩く事にした。 「大体だ、連れてかれる三日前にそういう事があんならオレかルイズあたりに言ってりゃもっと楽に済んでんだよ。人質が居ると居ないとでは大分違ってくるんだからな…」 かなり綱渡り的任務だったはずだ。 最初の時点で、衛兵が金に釣られなければその時点で失敗。 モット伯が部下の顔を全て把握していれば、魔法を使われか叫ばれるなりして他の連中にこちらの存在がバレた可能性もある。 そして、殺害ではなく捕獲命令を出していれば老化させていたとはいえ、アレがモット伯だとバレるかもしれなかった。 正直、よくこうも上手くいったものだと思う。 本来、攻めでこそ本領が発揮される能力であり、こういう守り・奪還に適した能力ではないのだ。 「……す、すいません…」 言いながら恐る恐る顔を上げたが、予想に反してプロシュートの顔は苦笑いだった。 「……怒ってないんですか?」 「これがペッシならブン殴ってるとこだが…まぁオメーはギャングでもメイジでもねーしな。今ので勘弁しといてやるよ」 「す、すいません」 「……もう一発か」 「へ?あの…?うひゃぁぁぁぁ」 「いたた…それで、その…お礼なんですが」 「…オメーも結構しぶといな」 シカトして戻っちまおーかとも思ったが目を見て止めた。 何かに似てると思ったが…借金だ。それも金利がバカ高いやつ。 借金なら色々な手で揉み消せない事も無いが礼を揉み消すというのもなんなので早い段階で清算しておく方が良策だと判断した。 (後にすればするほど膨れ上がって収拾が付かなくなるタイプだな…) 「そうだな…この前オレんとこの故郷の話したからオメーのとこの話聞かせてくれりゃあそれでいい」 「わたしの故郷ですか?タルブの村っていって、ここから、そうですね、馬で三日ぐらいかな…ラ・ロシェールの向こうです」 「三日?えらく遠いな」 「それでも、もっと遠くから来ている方もいますし。何も無い、辺鄙な村ですけど… とっても広い綺麗な草原があって、地平線のずっと向こうまで季節ごとのお花の海が続いて、今頃とっても綺麗だろうな…」 (ダメだな…いいとこ麦畑しか浮かばねぇ) 花畑に立つ暗殺者というものほど矛盾した存在はあるまいと失笑気味だが、自分自身が常に死の中に居る。 生き方的な問題だけではなく、能力的な問題だ。生物なら全て無差別に朽ち果てさせる能力。 花畑なぞに入っても自分の周辺だけその花が枯れ果てている姿を想像し思わず自嘲的な笑みが零れた。 それを見たシエスタだが、その笑みが普通に微笑んでいるようにしか捕らえられずさらに話を続ける。 「この前、お話してくれた…そう!ひこうきとやらで、あのお花の上を飛んでみたいんです」 「勘違いしてるようだが言うが、鳥程自由には飛べねーからな」 目を輝かせるようにして思い出話に浸っているシエスタだが 村に来て欲しい事、草原を見せたい事、ヨシェナヴェなる料理がある事。まぁこれはよかった。 「………プロシュートさんはわたし達に『可能性』をみせてくれたから」 「可能性を見せた…?くだらねぇな…」 「く、くだらなくなんかないです!わたし達なんのかんの言って、貴族の人達に怯えて暮らしてて そうじゃない人がいるってことが、なんだか自分の事みたいに嬉しくて…わたしだけじゃなく厨房の皆もそう言ってます!」 「可能性ってのは、自分自身ががそこに向かい成長しようと意志さえあればいくらでもあんだよ。他人の成長を見ても自分の可能性ってのは掴めるもんじゃあねぇ」 同じスタンド使いがいねぇようにな。 さすがに、スタンド使い云々に関しては口に出さなかったが。 「…難しいですね」 「簡単に分かりゃあ誰も苦労しねーよ。ここのマンモーニどもも、魔法が使えるってだけで分かってねぇのが殆どだしな」 「また、今度…それを教えてくえませんか?」 これがペッシとかならギャング的覚悟を叩き込むのだが、この場合はどうしたものかと悩んだ。なので一応の答えで場を濁す事にしたのだが…それが不味かった 「オレの分かる範囲でなら…な」 肯定と受け取ったのかシエスタさんのスイッチが入ったご様子。 「是非お願いします!あ…でも、いきなり男の人なんか連れていったら、家族の皆が驚いてしまうわ。どうしよう… そ、そうだ。旦那様よって言えば…け、結婚するからって言えば皆、喜ぶわ。母様も父様も妹や弟たちも……」 ……… …………… (シエスタは…『壊れた』のか…?いや違う…ッ!こいつは『素』だッ!明らかに『素』の目をしている……ッ!) 今にもシエスタの後ろに効果音とかが現れそうだったが、引き気味にそれを見ていたプロシュートに気付いて我に返って首を振る。 「あ、あはははは!ご、ごめんなさい…!そ、そんなの迷惑ですよね…あ!いけない!お洗濯物を洗いにいかないと…それじゃあ失礼します!」 「…手遅れか…トイチってとこだな」 収拾が付かなくなる前に清算を済ませるつもりだったがスデに金利が膨れ上がり手の付けられないとこまで突入している事にようやく気付いた。 まぁかなり前から手遅れなのだが、それは兄貴。 誰でも対等に扱おうとするが故に平民と貴族が区別されているここにおいては、それが類を見ない事である事に気付けてすらいない。 少し引いていたが、今はイタリアに戻るという事が最優先事項だ。 リゾット達がボスを倒しているのなら、その姿だけ見届けどこかに消える。途中脱落した自分にそれに加わる資格は無い。 だが、もしリゾット達がボスに敗れ全滅しているのなら…成すべき事は一つ。 「…考えたくはねぇが…ボスにその報いを受けさせる…ッ!」 死んだ事になっているのならば少しはボスの事も探りやすくなるはずだ。 暗殺チームの誇りと矜持に賭けて、それこそ『腕を飛ばされようが脚をもがれようが』何があろうとボスを殺す。 だが、現状は戻れる気配すら掴めていない。 「チッ…戻れる当てがねぇのにボスを殺す事なんざ考えても意味がねぇな」 そう呟き、頭を掻きながら空を見上げると、その事は一時頭の片隅に追いやり今は使い魔としての任務を果たすべきだと切り替えルイズの部屋に戻った。 そろそろルイズを叩き起こそうとドアを開けながら声をかけたのだが、反応は実に意外だったッ! 「起きろ」 「え、ちょ、ちょっと待ちn」 「珍しく起きてんのか」 特に気にした様子もなく後ろ手でドアを閉め視線を部屋に向けると…着替え途中で産まれたばかりの状態一歩手前のルイズが固まっていた。 「……ぅぁ…っぁ…ぁぁ……」 「ようやく自分でやる気になったか…まぁ今までやらなかった方がおかしい事だったんだが」 特に気にした様子も無く、デルフリンガーと新しいスーツの上着を掴むと外に出るべく固まってるルイズに背を向ける。 普通なら、まぁ見た方が焦って慌てながら後ろ向いてしどろもどろになって逆にいい感じに発展するというのが王道パターンなのだが この場合、一片の動揺すら見せず何時もと同じような扱いをしたのが『逆に』不味かったッ! もっとも、この前まで着替えさせていたというのに急に変えろというのが無理がある事なのだが。 「……み…み…みみみみ見た…見たわね…?」 「あ?この前まで着替えやらせといたマンモーニが何を今更」 気だるそうにかつどうでもいい風にそう答えたプロシュートにルイズの何かがキレかかった。 「…って…出てって!」 「今やってんだろーが…ま、自分でやる気になったんだから少しは『成長』したんだろうな。褒めといてやるよ」 この場合当然、精神的成長なのだが、キレかかっているルイズは、まぁその何だ、肉体的な意味の成長と受け取ったらしい。主に胸とか。 「……だだだ、誰の胸がすす、少ししか成長してないですってぇーーーーーーーーー!!」 「…なッ!誰もんなこたぁ言って「兄貴…そりゃ俺もそう思うが本人の前で言うのはヒデーと思うぞ」」 否定する前に空気の読めないデルフリンガーの一言。これで完全にルイズがキレた。 「で、出てってーーーーーーーーーー!!」 ドッギャァーーーーーz____ン 「なによ…見ておいて…いつもと変わりないなんて…わたしを対等に見てないってことじゃない…!」 さすがに泣きはしないが、信頼していると言われていたのに、対等に扱って貰えないという事が今のルイズにはそれが無性に悲しかった。 一方、間一髪爆破に巻き込まれる前に部屋の外に逃げたが再び部屋を追い出される事になりプロシュートがデルフリンガーを冷めた目で見ていた。 「あ、兄貴…俺なんかマズイ事言ったか…?」 「…じゃあこれからオメーがされる事を説明すんのは簡単ってわけだ…さっきオレが言ってないと言っている途中で余計な事言ったよなオメー」 「あ、兄貴ィ!ま、まさかッ!!」 ……… …………… ズッタン!ズッズッタン! 「うんごおおおおおおおおおお!!!」 ズッタン!ズッズッタン! グイン!グイン!バッ!バッ! 「うんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」 ズッタン!ズッズッタン…… ゼロのルイズ―しばらく引き篭もる事になる。 デルフリンガーパッショーネ伝統拷問ダンスを食らいしばらく鞘から出てこなくなる プロシュート兄貴ー再びフリーエージェント宣言&ザ・ニュースーツ! ←To be continued 戻る< 目次 続く
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ルイズの身嗜みが終わり、二人そろい部屋を出る。 すると同じタイミングで横の部屋が開いた。 「あら?ルイズ、おはよう」 赤い髪を掻き上げながら挨拶をする少女。 「……おはよう。キュルケ」 朝っぱらから嫌なモノ見た、とでもいいたげに挨拶するルイズ。 ルイズの視線をアヴドゥルは追ってみる……納得いった。 良く言っても『慎ましやかな丘』であるルイズ。 一方、控えめに言っても『山脈』のキュルケ。 戦力の差は歴然であった! アヴドゥルが生温かい視線をルイズに送っているとキュルケが観察するように見てくる。 「ふ~ん…本当に平民を召喚したんだ。…………逞しそうだけどタイプじゃないわね」 「ちょっと!勝手に人の使い魔、見ないでよ!」 ジロジロとアヴドゥルを見られ、警戒したのかルイズが二人の間を遮る様に立つ。 「…ぷッ」 「へ?」 そんなルイズがツボに入ったのか、キュルケの笑い声が廊下に響く。 「あっはっは!平民なんて凄いじゃないwさすがね~w」 明らかにからかわれている! ルイズは怒りに震える拳を握り締める。 (……いつか覚えてなさいよ~) しかし、召喚したのは自分のため何も言い返せない。 「使い魔ってのはね、この子みたいのを言うのよ。フレイム!」 ピンッ!っという指パッチンの後、キュルケの部屋から赤く大きなトカゲらしきモノが出てくる。 「……ほう」 思わず感嘆の声が出るアヴドゥル。 今までカブトムシのようなスタンドなど、変わった生物?を色々見てきた。 昨日は旋回する竜らしき生物も見た。 しかし! 自分と同じ火の属性の大トカゲ……いや『ヒトカゲ』はそれら以上の感動を与えてくれた。 キュルケはルイズに使い魔自慢を言っている。 それに別段興味もなかったアヴドゥルはフレイムに集中していた。 すると、使い魔効果かは知らないが微妙な意思疎通ができた。 「きゅるきゅる?」 「アヴドゥルだ」 「きゅる!きゅるきゅる」 「ああ、よろしく頼む」 使い魔組みは主人と正反対に、仲良く挨拶を交し合っていた。 ようやく話が終わったのか、両主人がフレイムの頭を撫でているアヴドゥルに気付く。 「あら?フレイムが私以外に触らせるなんて」 「アヴドゥル!ツェルプストーの使い魔なんかと馴れ合わないの!」 廊下に響くルイズの怒声。 それを聞いたキュルケは呆れの入った溜息と共に、アヴドゥルに一言告げる。 「あなたも癇癪持ちの主人を持って大変ね、嫌になったら私のとこに来なさい。いつでも雇ってあげるわ」 (ルイズへの嫌がらせだけど) その言葉を最後に、じゃッあね~っと、ドップラー効果を活用しながら去っていくキュルケを、親の敵の如く睨み付けるルイズ。 「キュルケのやつ~。自分がちょっとサラマンダーなんか引いたからって自慢しちゃって~………胸……飾り……(ぶつぶつ)」 プルプル震えながらキュルケへの怨みを語る。 ある程度落ち着いたのか、今度はアヴドゥルに視線を向けてきた。 (全部コイツがいけないのよ!なんで愚者な犬や、ホル~スな隼じゃないのよ!) 睨み付けながら考えることは、完全な八つ当たりだ。 だが、使い魔を引いたのはルイズ自身。 コレを当り散らすのを、貴族としての…いや、ルイズのプライドが押し止めた。 「もういい。食事に行くわよ!」 ぶっきらぼうにいい先を行くルイズ。 背中からまだ、腹に据えかねているのが分かったアヴドゥルは黙って付いていった。 ルイズの『約束された勝利(主従関係)』が待つ食堂へ。
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あの時、私達は間に合わなかった。ぎりぎりのところで、彼女の魂は天に昇っていった。 「ルイズ……?」 私は涙を流しながら彼女を呼んだ。 彼女の魂はこちらに振り向いて言った。 「なんで泣くの…?私達はあいつを倒せたじゃない…それに私が死ぬのは貴女のせいじゃない。私が二人を殺したからなの…だから…」 彼女の魂は満足そうだった。自分がやってしまったことを、私達に助けられつつも、退かずに自分で解決しようと出来たからだろうか。 「さよなら…。」 私達は昇り行くルイズの魂を止めれなかった。 「ようやく…会えたわね……」 私は今、彼女の墓の前にいる。 あの事件から数年が経った。たった数年だが、色々な事があった。 一番衝撃だったのはトリステインが滅ぼされた事だろう。 トリステインはレコン・キスタと対抗するためにアンエリッタ姫をゲルマニア皇帝と政略結婚させるつもりだったが、 式の直前にレコン・キスタが旧アルビオン王国皇太子ウェールズに送られたアンエリッタ姫の恋文を公開され、ご破算になってしまった。 その後、トリステインは単身でレコン・キスタに戦ったのだが敗北、王族と多数の貴族がギロチンにかけられた。ギロチンにかけられた王族や貴族の墓は凌辱された。 彼女の実家もそういった家の内の一つだった。 あの時に彼女は死んで、良かったのかもしれない。家族や友人が処刑されていき、市中にその首を曝されるのを見ずに済んだのだから… トリステインが滅亡する前に、私やタバサを含め、ほとんどの生徒や教師はバラバラになってトリステインから逃げ出した。 タバサとは手紙のやり取りをしていて、たまに会ったりする。叔父のガリア王の元、色々な命令を受けては危険な任務を遂行している。 コルベールとは長く連絡をとっていない。風の噂によればまだ何処かの魔法学院で教師をしつつ、研究を重ねているらしい。 トリステインの動乱が収まって国勢が落ち着いてから、私は一人、彼女の墓を探して旧トリステイン王国を訪れた。 そして見つけた。元トリステイン魔法学院の敷地跡の端にひっそりと作られ、皆から忘れ去られた小さな小さな墓を。 その墓石は誰にも見つからず、淋しく、苔むしていた。 「ずっと…ずっと…会いに来れなくてごめん……一人ぼっちで…淋しかったわよね…?」 そこに眠る桃色の髪の友人に、私は涙を流しながら、静かに黙祷を捧げた。 使い魔の鎮魂歌sotto voce-fin
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ギーシュの奇妙な決闘 第二話 『決闘の顛末』 目を覚ましたら……目の前に、天井があった。 当たり前すぎて今更どうこう言う事柄ではないのだが、今まで見ていた夢の内容との落差に、ギーシュはどうしても目を白黒とさせてしまう。 反射的に、向かい合う天井をじっと見つめて観察する……少なくとも、彼自身の部屋ではないらしい。 鼻腔を刺激する薬品の匂いに、首だけを動かして辺りを見回して、初めてそこが何処で、自分がどういう状況に置かれていたかを認識した。 (医務室に、寝かせられているのか。僕は) それもそうだろうと、納得する。決闘が終わった時点で、ギーシュはかなりの重症を負っていたのだから。 医務室にいないほうが可笑しいのだ。目が冷めたら棺おけの中だった、なんていうのは笑えないジョークだ。 と、見回した拍子に、見慣れた金髪が視界の端に引っかかった。 「…………ギーシュ!」 視線を戻せば、医務室の入り口で呆然とギーシュのほうを見ていた。 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシは、ギーシュが医務室の住人になってからというもの、気が気でなかった。 当たり前といえば当たり前である。半ばギーシュの自業自得とはいえ、彼があの危険なゼロの使い魔と決闘をおっぱじめたのは、彼女の香水が原因のひとつなのだから。 二股をかけられたケティの方はすっぱりと諦めが付いたようだが、なんだかんだ言っても、モンモランシーはギーシュにまだまだ未練があった。 彼女自身、何故自分がここまでギーシュに引かれるのかはさっぱり分からない。 彼女の性格を考えると、二股かけた馬鹿男など、たとえ相手が公爵家でも御免こうむりたいと考えるだろう……『理由がつけられる恋なんて恋じゃない』とは、何処の恋愛小説の台詞だったか。 それに…… モンモランシーの脳裏に、ゼロの使い魔……あの危険な平民を倒したギーシュの相貌がよみがえる。 自分は、ギーシュが腹部を撃たれた瞬間、微動だに出来なかった。 モンモランシーのような机上で研究に明け暮れるタイプのメイジとは無縁の、余りにも剣呑な空気の飲み込まれてしまったのだ。 得体の知れないものに対する、命の危機に対する、人を殺せる男に対する、ありとあらゆる恐怖が彼女の両手足を縛り付けたのだ。 ヴェストリの広場に集まったギャラリー……彼らは、主であるルイズも含めた全員が、リンゴォの放つ異様な空気の飲み込まれてしまったのだ。 リンゴォは、そんなギャラリーたちを見て、鼻で笑う事すらしなかった。ただ、能面のような顔で辺りを見回し、言葉を紡いだのみである。 『友が倒されても武器すら取らない……か。貴様らは対応者ですらないようだな』 『対応者』 この言葉が何を意味するのか、モンモランシーには分からなかった。分からなかったが、リンゴォが自分達に対して『軽蔑』では済まされないほどの隔意を抱いた事はわかった。 『お、お前! 平民が貴族を殺して、ただで済むと思ってるのか!』 ギャラリーの仲の誰かが、リンゴォに向かって叫びをあげるが、モンモランシーはそれに賛同する気にはならなかった。 『これ』は、平民なんてカテゴリに分類されるものではない。貴族でもない。もっと、人間としての何かを超越した者だと、感じたから。 人間は、理解の出来ないもの得体の知れないものに恐怖を抱くものだ。そして、リンゴォのような思考形態を持つものは貴族にも平民にも存在しない。 それゆえに感じた違和感が、モンモランシーの認識を狂わせていた。 ギャラリーの叫びにも、リンゴォは表情一つ動かさずに、返した。 『この小僧のような輩が貴族だというのなら、何人かかってきても負ける気はしない』 ここにいたってようやく。 モンモランシーは、リンゴォがギーシュを撃ったという事実を受け入れ。 『…………うああああああああっ!!!!』 杖を振るった。 そして放たれた水の刃は寸分たがわずリンゴォの腹部を貫いた……筈だった。 『!?』 『やはり……貴様らは……』 貫いたはずなのに! 傷一つなくその場にたたずむリンゴォは、モンモランシーを睨みつけて、 『薄汚い『対応者』に過ぎないっ! 恋人が殺されてから呪文を唱えやがって! そこはオレの銃の射程の外だっ! 汚 ら わ し い ぞ っ ! 』 その後も、薄汚い発言で激昂した貴族達の魔法がリンゴォをうがつが。 『そんなのでオレを殺す事はできない!』 全てが無意味だった。 いくら攻撃してもまるで時が撒き戻ったかのように元に戻る。その場にいる全員が、攻撃の無意味を悟るのにさほど時間はかからなかった。 そんな現象を垣間見ていたからだろう。その後、リンゴォの能力……時を撒き戻すマンダムの事を聞かされたときに、奇妙なほど納得してしまったのは。 そして。 彼は、ギーシュ・ド・グラモンは立ち上がり、勝利した。 時を撒き戻せる、あの異質なゼロの使い魔に。 その時に負った腹部の傷は決して浅いものではなく、彼は医務室への直行を余儀なくされ……命は取り留めたものの、血が流れすぎたせいか、かれこれ一週間、目覚めなかった。 香水の二つ名を持つ水のメイジとはいえ、所詮は学生……彼女はギーシュのケガを癒すのに、何の寄与もすることが出来なかったのだ。 それが、戦いのきっかけになった香水の事と、リンゴォの『対応者』発現と合わせて、決して小さくない罪悪感の塊としてモンモラシーの胸の中にわだかまっている。 そんな理由から、彼女はギーシュが入院してから、花束を抱えて医務室を訪れ花瓶の花を差し替えることが日課になっていた。 治療に当たったメイジの話では、このまま一生目を覚まさない可能性もあるらしい…… 今日は香水も一緒に持ってきた。怪我が治るとかそういうのではなく、目覚めが良くなるように調合した奴だ。 (これで、目覚めてくれるといいんだけど) そんな事を考えながら、モンモランシーは医務室の扉を開けて……ギーシュの見開かれた瞳を見て、固まった。 (……!) 見開かれた瞳だけではない。ベッドの上に横たわったギーシュの首が、辺りを見回すようにして動いている。 間違いない。 目を覚ました。ギーシュが、死の淵から生還を遂げたのだ! 「ギーシュ!」 「やぁ……モンモランシー。君の美貌は相変わらずだね」 目覚めたてで本調子ではないのだろう。ギーシュは青い顔を無理やり笑顔の形にゆがめて、彼女の名を呼んだ。いつもどおりの薄っぺらなお世辞もおまけにつけて。 「ば、馬鹿ッ! 私の事より自分のことを心配しなさい!」 余りにもいつもどおりのギーシュの言葉が照れくさかったと同時に、青い顔からそれが吐き出されるのが痛々しくて、目線をそらす。 「そこなんだけどな、モンモランシー……僕は、アレから一体どうなったんだい? あいつは、リンゴォはどうした?」 「それは……あああ! 一寸待ってて! 今、先生を呼んでくるから!」 ギーシュが発した疑問を一旦放置して、モンモランシーは医務室から駆け出していく。 一刻も早く、このめでたいニュースを皆に知らせたかった。 ――ゼロのルイズが召還したのは平民じゃない、古代の悪魔だ。 こんな、荒唐無稽な噂話は、暗い歓喜と安心感をもって学院の生徒達に受け入れられ、事実として浸透していった。 メイジでもない平民に気おされ、あまつさえ手も足も出なかったという事実は、プライドの塊である貴族の子弟達には受け入れがたい事実であり、そんな事実を受け入れるぐらいなら、多少荒唐無稽でもリンゴォを悪魔だと思い込んだほうがいいというわけだ。 彼ら自身の安いプライドを守るための防衛本能が生み出した、無責任な噂だったが……誰も、その噂を正面きって否定することは出来なかった。 何せ、そのリンゴォ自身が…… 「消えた、だって!?」 「ええ」 驚愕の声を上げるギーシュに、モンモランシーは淡々と事実を告げた。 「あなたが気を失うと同時に、すぅっと消えちゃったのよ……」 死体が消える。 魔法の存在する世界でもそうそう起きるはずのない現象。それを実際に垣間見た事で、リンゴォ=悪魔という荒唐無稽な方程式が出来上がってしまったというわけだ。 「やれやれ、それで悪魔かい」 あの後。治療薬のメイジをつれて帰ってきたモンモランシーに、自分が気絶してる間の情報を聞いたのだが…… 悪魔の存在自体が否定されて久しいというのに、貴族の末端であるはずのギーシュもこの論説にはあきれ返った。 『あれ』が貴族なのか平民なのかはギーシュにも分からない。だが、ひとつだけ確実にいえることは。 ――リンゴォ・ロードアゲインは『人間』だった。 そういう、奇妙な実感だけがギーシュの胸に残っていた。 「悪魔かどうかはともかく、ゼロのルイズがとてつもない存在を呼び出したのは確かだって言うんで、今学園はてんやわんやよ」 「ミス・ヴァリエールが?」 「ええ」 メイジの実力は使い魔で決まる。コレは、使い古されすぎて誰が言い出したかも分からない古い標語であり、事実でもある。 確かに、あの男……リンゴォ・ロードアゲインの主はルイズであり、先の標語に乗っ取って判断するのなら、ルイズのメイジとしての実力がずば抜けたものであるという事になるのだろうが。 「使い魔がすぐに死んじゃったし、ルイズの監督不行き届きって事で、普通なら退学になる所よ……けれど、今回は使いまがアレだし、コレがルイズの実力なら、ひょっとしたらひょっとするかもって、使い魔の再召喚が行われたの。 けど」 「けどって……まさか、また」 はっとなるギーシュに、モンモランシーはコクリと頷いて。 「そ。『また』平民の使い魔を呼び出したのよ、あの子……今度も、変な能力持ってるみたいで」 「ま、まさか時間を止めるとかかい!?」 「ううん。本人もよくわかってないみたいよ」 自分の脳裏に閃いたえげつない能力をそのまま口に出すギーシュ。モンモラシーの返答は先ほどとは真逆であり、首を左右に振った。 「あなたと前の使い魔の決闘みたいなことが、今回の使い魔でも起きたのよ。メイジと平民の決闘って形でね」 モンモランシーは語らなかったが、リンゴォの存在が強大な悪魔という形でメイジたちの間で認識される過程で、それを打ち倒したギーシュの存在も、比例して大きな虚像を映し出していったのだ。 すなわち、悪魔殺しの将来有望なメイジとして、ギーシュ・ド・グラモンの名は学園中に広まったのである。 無論のこと、コレはリンゴォの存在が誤認された恩恵を受けた虚像であり、実状を伴うものではなかった。 今回新しい使い魔に挑んだメイジは、そんなギーシュの英雄的扱いの尻馬に乗ろうとした愚か者であった。 そして結果は…… 「それで、その使い魔に挑んだメイジはどうなったんだい? と、いうか……一体誰がミス・ヴァリエールの使い魔に決闘を?」 「……『黒土』のボーンナムよ」 「……あー」 モンモランシーが口にした名前に、ギーシュはすぐさま、使い魔が無事でない事を確信した。勝敗はどーあれ、ただですむ道理がない。 『黒土』のボーンナム。メイジとしてのレベルはギーシュと同ランクだが、比較的友人の多いギーシュと違い、彼には全く友人がいなかった。 そこまで人格的に問題があるわけではないというのに。何故か? 簡単な話だ。彼はどんなに横暴な貴族でも眉をひそめてしまうほどの、徹底したサディストなのである。メイドを殴る蹴るなど日常茶飯事。 ある時などは、粗相を働いたメイドに頭から煮えたぎった油をぶっ掛けて、のた打ち回る姿をげらげら笑いながら眺めていたほどだ。 彼の暴力に晒された平民達を、オールド・オスマンは丁重に治療し、暇を出して田舎に帰らせたが……今日に至るまで誰一人として、学院に戻ってきたことはない。 いかに平民相手の所業とはいえ、周りの貴族はその行いに大いに引き、彼は学園内で孤立した。その寂しさをメイドで紛らわせようとするものだから……最悪の循環である。 メイド達の貴族に対する感情を、恐怖一色に染め上げている元凶であった。 かく言うギーシュ自身も、平民とはいえ女性を傷つけて悦ぶようなボーンナムに、軽蔑と嘲笑の混じった濃色の嫌悪感を抱いていた。 「オールド・オスマンに厳重注意を受けておとなしくなったと聞いたけれど……」 「今日、早速やらかしたのよ。あなたも絡んだあのシエスタって娘の手に、ナイフを付きたてて、その上から靴で踏みにじってグリグリ」 「それはまた……それを、ミスヴァリエールの使い魔がかばったというわけか」 「そ。あなたと全く同じねギーシュ」 「うぐっ」 ジト目でにらまれ、言葉に詰まる。 まあ、確かに……ギーシュがリンゴォに挑んだ理由も、『メイドのせいで二股がばれて、逆切れで八つ当たりしようとした』というとてつもなく情けないものだったから、言い返せるはずなどありはしない。 ……ギーシュの名誉のために言っておくと、彼はあの時メイドを傷つけようとする意思は全くなかった。 多少脅しつけてやろうとしただけで、本当に傷つけようなどとは、全く思っていなかったのである。 実際には、メイドに難癖つけたボーンナムを使い魔がかばい、それを挑発するために行った凶行なのだが。 まあ、そんな事はどうでもよろしい。 件のボーンナムは、黒土の二つ名が示すとおり、土のドットメイジだ。扱う魔法の性質は、ギーシュとよく似ているだろう。 扱う杖はバラの造花だし、ギーシュのワルキューレとよく似た土のゴーレムを5体まで同時に制御できる。 ボーンナム自身の性癖を反映し相手を殺そうとせず、なぶり殺しにするような陰険な戦法を使う。 余談だが、ボーンナムがバラの造花を杖にするのは、単に『茨が痛そうだから』にすぎない。 メイジとしては下から数えたほうが早いのだろうが、平民からすれば中々に手ごわい相手だというべきだろう。 しかも、戦い方からして、相手の平民は無傷では済むまい。 「それで、勝ったのはどっちなんだい?」 「そこは、あなたとは真反対。使い魔のほうが勝ったわ」 「あらら」 ギーシュはプライドを打ち崩されたであろう旧友のために、コンマ3秒だけ黙祷し、すぐさま忘れた。 ギーシュにとって嫌いな野郎の扱いなどこんなもんだ。 「使い魔の使った能力が、よく分からないっていうのは……」 「うん。使い魔のルーンが光ったと思ったら、いきなり動きが良くなったのよ。あれは、実力を隠してたとかそういうレベルじゃなかったわね。 もっと根源的な力の上昇というか」 「使い魔のルーン?」 「コルベール先生の話だと、とても珍しいルーンらしいけど……」 (そういえば、リンゴォのルーンも変わっていたな) モンモランシーの説明から、ふとあの決闘者の左手を思い浮かべるギーシュ。そもそもルーン文字ですらない文字列だった気がするが。 「後は、剣でボーンナムをざっくり」 「ざっくりって……それじゃ、あいつもこの部屋にいるのかい?」 反射的に嫌な顔をして、あたりを見回すギーシュ。あんな奴と同じ病室で寝るのなんて御免だというのが、彼の正直な気持ちだった。 モンモランシーがざっくりと表現するような傷だ。医務室の厄介になっていることは確実だろう。 「あ。大丈夫よ。今回の一件で退学にさせられたから、今頃は馬車の中で唸ってるんじゃあないかしら」 「退学?」 「流石のオールド・オスマンも今回ばかりはね」 厳重注意を受けたくせに騒ぎを起こしたのだ。堪忍袋の緒が切れたのだろう。 大人数が目撃している前での凶行だったために、弁明の余地すら与えられずに即決だった。 ボーンナムの父親はごくごく全うな性癖の人間であるため、このまま地方の片隅で強制的に隠棲させられ、次男が家督を継ぐだろうというのが、大方の見解である。 「本当はあなたも勝手に決闘したってことで、謹慎なりなんなり罰則を受けるはずだったんだけど。 オールド・オスマンがケガが罰則になるからこれ以上の罰は不要だ、ってかばってくれたのよ」 まさに外道! なボーンナムの行いの前に、ギーシュの起こした問題行動がかすんでしまったというのも大きかったのだろう。 兎に角、ギーシュは今回の決闘騒ぎにおいて、一切のペナルティを受けることはなくなったのである。 「――終わりましたよ」 二人の会話を華麗に聞き流し、ギーシュの傷を診察していたメイジが、笑顔で二人に告げる。 「もう大丈夫でしょう。傷口は塞がっているし、血もあらかた戻ったようだ。激しい運動は出来ませんが、普通に授業を受けたり歩いたりするぐらいなら」 「本当ですか?」 「ええ。ただし、激しい運動や長時間の運動は、禁止ですよ?」 「はい」 (おや) 意外と聞き分けのいいギーシュの姿を見て、人のいい事で知られるメイジは目を丸くした。 こういう風にやんわりと言い聞かせても、何らかの形で逆らうのが、貴族の師弟というものだからだ。 彼は確かにメイジだが、オールド・オスマンの秘書と同じく、貴族位を剥奪された没落貴族の出であるため、そんな彼を敬うものは全くなかったりするのである。 実際同じように治療し、治療が終わり次第追い出されたボーンナムは、医師の注意を嘲笑でもって聞き流したものだ。 てっきり、ギーシュもそう応えるのかと思ったが。 (決闘が、いい方向に影響を与えましたかね) 成長する孫を眺めるような心境で、老メイジはギーシュを見やった。実際、彼にとってこの学院の生徒達など、全員が孫のような世代だ。 「さて、そうと決まったら」 「? 何よ。行くところが決まってるの?」 いきなりベッドの上に上体を起こすギーシュに、モンモランシーはとがめるような視線を向ける。 それに対して彼は、ニヒルに笑い…… 「ああ。新しい『ゼロの使い魔』に会いに行きたいんだ。案内してくれるかい? 愛しのモンモランシー」 自分の体を覆うシーツを、バッと跳ね上げた。 さて、読者の皆様。 皆様方はこう思っていませんか? 『こんなギーシュ格好良すぎるYO!』『こんなのギーシュじゃないYO!』 ええ、そんな事は筆者も分かってます。分かってますとも。 あのギーシュが、このまま格好いいまま終わるはずがないのです。 シーツを跳ね除けたギーシュの周りに、バラの花びらが舞っていた。どーせ、演出でギーシュが放ったものだろう。 それに包まれて、彼は雄雄しくベッドの上に仁王立ちしている……彼としては格好をつけたつもりなのだろう。 だが、知らないというひとつの罪が、その行動を致命的なものにしていた。 今の彼の格好は! 包 帯 の み の 全 裸 ! 彼は知らなかった。血まみれになってしまった自分の服が、治療の際に全て破棄されていることを。 彼は知らなかった。老メイジの『治療の際に一々服脱がせると腰がいたい』とゆーしょーもない理由で自分がそのままの状態で治療を受けていたことを。 シーツをバッと引き上げて。バラの中、ほぼ全裸で屹立している素肌に包帯のみの男。 極め付けに、朝立ちと呼ばれる現象がギーシュの股間を襲っており、そちらも『屹立』している。 どう見ても変態です本当にありがとうございました。 一瞬にして、ホワイトアルバムよりも早く真っ白に凍りつく医務室の風景。 しかも間の悪いことに、屹立したギーシュのものは、モンモランシーの目と鼻の先でその存在を主張していた。 モンモランシーは勇者だった。 ギーシュのかっこつけによって引き起こされた、悲劇的な光景を前に硬直していたのは一瞬。 すぐさま再起動を果たした彼女は、 「……こ、こぉんの! ド変態!!!!」 ず ご ぉ っ ! 目の前のモノに拳を叩き込んだ! 「!!?!?!!?!?!!!???」 魂も月までぶっ飛ぶこの衝撃に、ギーシュは声にもならない悲鳴を上げ。 「ば、ばかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 あまりにおぞましい光景と、おぞましいものを殴ってしまったショックで、モンモランシーは目幅涙流しながら走り出し。 (……まず最初に、着替えさせるべきだったかな) 男の急所にきついのをぶち込まれたギーシュに同情しつつ、老医師はシーツをかけなおし。白目むいて気絶するギーシュを再び寝かせる。 目を覚ましたはずのギーシュの入院が、何ゆえ一日伸びたのか。 その理由を知っているはずの三人は、あるものは青ざめ、あるものは赤くなり、あるものは飄々として、語ろうとしなかった。
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次の日、私はまた薬を飲んでいた。 飲む。ひらすら飲む。ただ飲む。とにかく飲む。 そしてついに飲みきった。 私は打ち勝ったのだ。緑色の秘薬に!何一つ顔色を変えず飲みきったのだ! その後すぐに渡されたさらに色の濃い秘薬はポンフリーに投げつけたくなった。 ポンフリーが言うにはこれを飲まないと衰えた筋肉や傷ついた筋肉が元に戻らないらしい。 もう一回薬を見る。濃い、色がさっき飲んだ薬より濃い。毒薬にしか見えない。 ……我慢だ。これを飲めば明日から普通の生活に戻れるのだ。ここは我慢して飲むべきなのだ。『幸福』になるためには健康な体が必要不可欠だ。我慢するしかないのだ。 口元に近づける。匂いがしない。入っている容器を揺らしてみる。波紋一つ起こらない。 容器を傾けるとゆっくりと垂れてきた。おい。おいおい、これって、 「粘液じゃねえか!」 ねっとりした濃緑の粘液だよ!本当に薬かよ! ポンフリーのほうを向くともういなくなっていた。 「おい、デルフリンガー。ポンフリーは何処に行った……」 デルフに聞いてみる。 「知らね。気がついたらいなくなってたぜ。それより相棒、昨日みたいにデルフって言ってくれよ」 デルフの言葉を黙殺し部屋を見回すが誰一人いなかった。まるで初めからいなかったかのように。無責任すぎないか? 畜生ッ!飲むしかないのか!?飲むしかないんだろうな…… 死なねえよな?医者が患者殺したりしないよな? 「飲まねえのか相棒?それ飲まないとダメなんだろ?」 「お前はこれをどう見る?」 デルフに見せ付けるように容器傾ける。やはり中の液体はゆっくりと垂れる。 「……粘液だな」 「だろ?」 「でも飲まないと治らねえんだろ」 これを飲む私を励ましてくれよ。そんなことは口が裂けても言えないが。 「一気にぐっと飲んじまえば大丈夫だって」 言ったからな。大丈夫じゃなかったら投げつけるからな。 「一気!一気!一気!一気!一気!」 畜生ッ! 大きく口を開きいっきに薬を呷った。 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「あ゛~~~~~~~~~~~~~……!」 窓が割れる音とデルフの悲鳴が響き渡る。結果:デルフは窓の外に投げられました。 何が大丈夫だあの駄剣がッ!死ぬかと思ったぞ!吐かなかったのが奇跡みたいなものだ! まず薬はねっとりしている。つまり口の中にまとわりつく。しかも咽喉に流れるのが遅い。ゆっくりと流れ落ちていくから咽喉越しは最悪だ! そして味だ。薬は苦い。それは初めに渡された薬からわかっていたことだ。 しかしこの薬はあの苦味を軽く超越していた。まさに苦味レボリューション。これ以上に無いというくらい苦かった。 それが水のようにスルッと口を通り過ぎるのではない。ねっとりと口の中や咽喉にへばりつくのだ。あまりの酷さに涙が零れ落ちたほどだ。 絶対苦くない薬があったに決まってる!趣味を押し付けやがって! 口の中から粘液が全てなくなるのに1時間、苦味が消えるのにさらに1時間かかった。 二度と意識があるときに飲みたくない。 ベッド寝転んで気分を落ち着かせる。気分が悪すぎる。それに腹も気持ち悪い。 寝転んでいれば楽になるだろう。 そう思い寝転んでいるとドアが開く音が聞こえた。ドアのほうに顔を向けるとそこにはルイズがいた。 手にはちょっと大き目の小包を持っている。 「調子はどう?」 あのときのように目の下に隈はなかった。それでも泣き疲れたような顔はしていた。 「ちょっと!すごく顔色悪いじゃない!大丈夫!?」 私の顔を見ると駆け寄ってきて小包を足元に置く。 「心配ない。薬が苦かっただけだ」 やはりルイズらしくない。こちらの心配なんてするような奴じゃなかったのに。 「薬?」 「そこの容器に入ってた薬だ」 ルイズが容器を手に取りまだ中に残っていた少量の残りを見る。 そして何かに気がついたのか容器を傾ける。そして驚いた顔でこちらを見る。 「ヨシカゲ!あんたこれ飲んだの!?」 「あ、ああ」 いきなり大声を出し容器を突きつけてくる。何だって言うんだ? 「信じらんない。これふつう意識があるときに飲むもんじゃないわよ。効果はすごいけど意識がないと飲めたもんじゃないし」 ポンフリー、ここまで徹底的にやられるとある意味清々しいよ。だからといって許すわけではないが。 「で、何しに来たんだ」 それにしてもルイズを見ると後悔の念が沸々と湧き上がってくる。 どうしてもっと早く殺さなかったんだろう。どうしてワルドに拘っていたんだろう。ルイズを殺してからワルドを殺してれば今頃自由だっただろうにな。 これで明日から雑用に逆戻りか。 「ご主人様が使い魔の心配をしたらいけないの?」 「いや、そんなことは無いが」 「それに渡すものがあるのよ」 そういうとルイズは足元においていた小包を開ける。 そこから出したのは、 「私の服じゃないか」 言葉通り私の服だった。そういえば別の服になってるな。そこまで気が回らなかった。 「破けたりこげたりした場所を直しといたわ」 そういって服を渡してくる。偉そうに言うがどうせお前が直したわけじゃないだろ。 そう思いながら服を受け取る。見た目は殆ど変わってない。ちょっと光の跳ね返り具合が変わっているだけだ。 その部分を触ってみる。凄くスベスベしていて明らかに材質が違うことがわかる。もっと材質を近づけようとは思わなかったのだろうか。 懐の部分を探ってみる。あれ?銃はどこだ? 「それとこれ」 そういってルイズが渡してきたものは銃だった。 「服の中に入ってたわよ」 「ありがとう」 そう言って銃を受け取る。これが無くなっていたらどうしようかと思ったぞ。 「それって何なの?」 「お守りさ」 ルイズの問いに適当に返す。 これが何なのか知らせる必要はない。そういえば弾はどうした。これアルビオンに行くときに敵に撃ったはずだから弾を補充しなけりゃいけないんだぞ。 まさかあの道中どこかで落としたのか!? ん?よく考えてみればもっていった記憶が無い。つまりルイズの部屋にあるのか。よかった。 でももしルイズ殺しが成功していたら弾はごっそり無くなっていたという事か。その点については失敗してよかった。 「そ、それでね。あのね……」 ルイズは何かを言おうとして口ごもる。 何だよまだあるのか?もう渡すもん渡しただろう、だったらさっさと帰ってくれないか? 「き、聞きたいことがあるのよ!」 「聞きたいこと?」 ルイズの瞳を見る。顔は赤かったが、その眼は真剣なまなざしをしていた。 ……どうせ碌な事じゃないから帰ってくれ。
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『青銅』のギーシュ⑤ 間違いない・・!今のオレの力は!確実に上がっているッ!!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・ ルイズの行動により、黄金の精神を取り戻し、復活したブチャラティ。戦いを再開する! だがその際に彼にとある変化が起きていた・・・・。 そしてその変化は、ルイズにも起こっていたッ!! 「アイツの後ろにいる『霊』はなんなの・・?アイツは・・一体・・?」 ルイズにはブチャラティの"スティッキィ・フィンガース"が見えているのか・・? ギーシュもまた驚いていたッ!! 「ブチャラティ・・・・一体何をしたんだ・・?一瞬で・・・僕のワルキューレを・・?」 その変化に一番驚いていたのは他でもないブチャラティ! 「これはジョルノの時のような感覚の暴走などでは断じてないッ!!これはまぎれもなくオレ自身に変化が起きているッ!!」 そして、体の痛みが少し引いているのに気づく!! 「足が・・・・まだ動く!!」 ギーシュに向かって走るッ!! ギーシュが動かないッ!!やはりショックは大きいか? 「・・・・・なぁーんてショックを受けると思ったかい!? そのルーンが光ったら強くなるなんてスデに想定の範囲内だッ!!」 ギーシュが造花の花弁を散らすッ!そしてワルキューレ(×7)!! 「僕はすでにこの戦いをずっと前から感じ取っていたんだ。精神が覚えていると言えばいいのかな。 そんなパワーアップくらいではこのギーシュ・ド・グラモンはうろたえないッ!!」 ワルキューレが突進するッ!!ブチャラティが構えるッ!! (オレに起こった変化・・・。まずこれだけの重傷でなお動く事が出来る・・) 2体のワルキューレの槍が捉えるッ!! ズバッ!ズバッ! 「ああ!剣で真っ二つに!」 ギャラリーも思わず息を呑むッ!! (二つ目・・・。本体のオレ自身が剣を自在に使えるようになっている・・・。) 彼は一応パッショーネで銃火器などの扱い方もスタンドの扱い方と一緒に学んでいたが、剣は素人のハズだったッ!! だが今のブチャラティはまるで何十人、何百人もの剣豪を斬り捨ててきた達人のような動きをしていたのだッ!! (そして何より三つ目・・!これはかなり大きな利点ッ!!) ブチャラティが後ろに控えていた3体のワルキューレを捉え・・! 「"スティッキィ・フィンガース"!!」 スタタァン!! まさに一瞬の出来事ッ!!その3体のワルキューレが『打撃』一発で粉々にぶち割れたッ! 「何ッ!?『打撃』だと・・!?だがさっきまでは一発では・・。」 ギーシュがそう言ってブチャラティがこっちを見ているのに気づくッ! 「落ち着け・・。まだあいつのスタンドとやらの射程距離には入ってない・・。 絶対に2メイル近づかずに『伸びる腕』に警戒すれば・・! "ワルキューレ"!今から新しく出す奴と連携して奴を・・!」 ボグシャア!! 突然の打撃ッ!ブチャラティはまだ5メイル先にいるのに!腕も伸ばしてなかった! 「ぐあああ!!」 ワルキューレごと後ろに吹っ飛んだッ!! 「そんな・・・まさか・・!」 「S・フィンガースも合わせて強化されている!!パワーは一撃で青銅を粉々に! スピードはそれを3体相手に一瞬でやってのけるほどにッ!! 射程距離に至っては5メートルに伸びているぞ!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・。 一方ギーシュは不幸中の幸い!ワルキューレを寸前に出していたおかげでギリギリ決定打には繋がらなかったッ!! 「ク・・・フフ、そうこなくてはいけないな!決闘を侮辱するよりはいい展開だぞブチャラティッ!!」 ギーシュがかまえ直すッ!! 「射程距離は5メイルに伸びたんだったな!ならさらに遠距離からッ!!」 ジャンプと同時に石礫ッ!!衝撃でさらに後ろにッ!! だが着地するときッ!! ミシッ! (く・・・。やはりあまり無理は出来ない・・・。もうこっちの魔力も尽きようとしている・・・。あまり戦いを長引かせることはできない・・・。) だがそれはブチャラティも同じッ!! (一時的に動けるとはいえオレのダメージが消えたわけではない。動きすぎて自滅なんてマンガのやられ役みたいな展開だけはゴメンだ・・・。) ((お互い、次の攻撃で勝負が決まる!!)) ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールがブチャラティを助けるために跪いてからまだほんの百数十秒しかたっていない・・・ 二分程しかたっていない・・・・・・。 あとその半分にも満たない時間で最終の決着はつくであろう・・・ 彼らをつつみ込む運命を変えることだけは・・・ どんな魔法でも、どんなスタンドにもできないのだ・・・ 次に動いた時!最後の勝負は始まるッ!! 「なんか使い魔の奴・・。剣持った時から強くなってないか・・?」 「ああ・・。なんかあの見えない『打撃』、今はアイツからほとばしるオーラそのものが攻撃してるように感じるんだけど・・・。」 (・・?みんなには『アイツ』が見えていないの・・?存在を感じ取っているだけ・・?) ルイズはブチャラティの後ろの存在に今なお困惑していた・・・。 (アレは・・・ブチャラティが動かしているの・・?ブチャラティ・・・ただの平民じゃない・・? 私だけがハッキリ見ているのは私がアイツの主人だから・・?) 使い魔とメイジは一心同体。使い魔はメイジの目となり、手となり、足となる存在。 その絆がルイズの感覚に変化を表したようだ・・・。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。 「『錬金』!!一体のワルキューレに青銅を集中させるッ!!」 先に動いたのはギーシュッ!! ピタッ ピタッ ピタッ 「耐久力を強化・・。そして魔力を極限まで脚部に集中させて強化ッ!!」 タンッ! ブチャラティが駆け出す!! 「いけッ!強化ワルキューレよ!!」 スタッ!!強化ワルキューレが迎え撃ったッ!! 「速いッ!!さっきまでより凄く速くなっている!!」 「さらに耐久力も上がって一撃では破壊できないッ!!」 そしてブチャラティと強化ワルキューレが接近した!! 「忘れたか・・?オレには『ジッパー』があるんだぜ・・。"スティッキィ・フィンガース"!!」 「かかったなアホがッ!!」 ギーシュが叫ぶッ!! 「ジッパー?よく覚えているさ・・。それがあれば耐久力は関係ないだろう・・。 だが逆に考えると、耐久力を上げればおまえはジッパーを使わざるを得ないだろう?」 ギーシュが造花を前におもいっきり突き出す!! 「ああっ!!まさかッ!!」 「君のジッパーは打撃と比べ、出した後にほんのわずかながら大きな隙が出来ているッ!!一瞬。だがこの一瞬を僕は待っていたんだッ!!」 ギーシュが『石礫』を唱え始めた! 「僕との間に直線上に強化ワルキューレを置き、その直線のラインを渡っていけば、 君はワルキューレを攻撃するためにそのまま直線状に走るだろう。だがそれが狙いだ! ブチャラティからみて僕がワルキューレの影、『死角』に入りジッパーを使ったために隙が出来る、この一瞬を待っていたんだッ!! この最後の石礫は発射されてからじゃあ対応できない!突進力を重視したのは彼に考える暇を与えないためだッ!」 いままでで一番高密度、超硬質に練り上げられた礫ができあがる!! 「ギーシュが優位に立ったぞッ!!」 「ギーシュが勝つのかぁ!?」 「ブチャラティさん逃げてぇーーーーーッ!!」 シエスタが叫ぶッ!! 「あ・・あ・・ブチャラティ・・・!間に合わない・・!」 ルイズが負けを確信する・・! 「勝ったッ!!こいつをくらって終われッ!!」 「なるほど・・・死角ができる一瞬をねらうつもりだったか・・・。 危なかった・・。こっちも策を練ってなければやられていた・・。」 「えっ!!?」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・。 意外ッ!その男は背後にッ!! 「い、い、いつから!?どうやって僕の後ろに!?」 「言っただろ?オレにはジッパーがあると・・。」 ブチャラティが地面に指差す。そこにはッ!! 「じ、地面にジッパーが・・?」 「ジッパーは何も切断だけが使い道ではない。オレのS・フィンガースのジッパーは壁や地面に貼ればそこに『中の世界』を作り出す事ができるッ!! さらに開閉はオレの意思で自在に行うことができるッ!!」 ギーシュはジッパーを目で辿るッ!ブチャラティとワルキューレのいた所から自分の背後までジッパーは伸びていたッ!! 「あ、あれかッ!あれで『ゼロのルイズ』の爆発からやり過ごしていたんだッ!! だからアイツは無傷だったんだッ!!」 キュルケも思い出すッ!! 「じゃあ最初の日、私たちの目を欺いたのもアレと言う事なの!?」 「まあ図で説明するとこういうことになる。」 ● →ワルキューレ ∥ →ジッパー縦。 = →ジッパー横 ① ギーシュ ●突撃方向―→ ←― ブチャラティ 「こうやって普通に突撃を行う。すると、」 ② ギーシュ ●→ ←ブチャラティ ↑ ↑ 『石礫』用意 こっちからはギーシュが見えない。 「こうやってワルキューレで死角を作りオレに止めをさすつもりだったんだろ? だがオレは・・・。」 ③ ===ギーシュ==============●=∥ ←ブチャラティ (中に入った。) ↑ ↑ 実は彼からも見えない。 ジッパーを貼って中に入る。。 「お前の見えない角度から地面にジッパーを貼ってその中に入る。 おまえ自身も呪文でトドメを指す事に集中して足元に気づかない。後は・・・。」 ④ ブチャラティ ===ギーシュ==============●=∥ ←―――――――開け!ジッパー! 「ジッパーの持ち手を持ちながらジッパーを開けば、お前に気づかれる事無く射程距離内に難なく入る事ができると言うワケだ。」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・ 「な、なぜ今までそれをもっと速く使わなかった・・?」 「実戦であろうがなんだろうが、切り札は最後のいよいよ危なくなった時に使うものだろう?」 場の空気が張り詰めるッ!! 「ブチャラティが・・・逆転した・・・!」 「ギーシュが危ないッ!!」 「逃げろギーシュ!!」 ジリ・・・・。 「無駄だ。オレのS・フィンガースのスピードと射程距離は・・・すでにお前を捉えているッ!! 逃げる事は・・・不可能だ!!」 モンモランシーが息を呑む! 「いや・・・・・。まだよ・・。」 「・・・・・・・フフフフ・・。ハハハハハハハハハ!!!!!!!! なぁ~んで僕が逃げなきゃ行けないのかなぁ!?わざわざそっちからトドメをさされに来たのにさぁ!!」 ギーシュがブチャラティに造花を向けるッ!!その先には・・・発射準備の完了した『石礫』!! 「僕の作戦が失敗しようが・・、それがどうした!?いくら僕に攻撃を当てるためとはいえ、ここまで至近距離まで近寄ればもうハズす事はない!! 最終的に・・・攻撃さえ当たればよかろうなのだぁ――――ッ!!」 「・・・・・・・・・・・。」 ブチャラティは石礫に目を据えるッ!! 「さらにッ!こうしている間に強化ワルキューレは戻って来ているんだぜッ!! 罠に嵌め返したつもりが、嵌ったのは結局君だブチャラティッ!!」 ガシャンガシャン!! 強化ワルキューレが猛スピードでこちらに向かうッ!! 「ああ!ブチャラティ!!もうダメ!降伏してッ!!」 「もうおそい!脱出不可能だッ!喰らえッ!!」 その瞬間誰もがギーシュの勝利を疑わなかったッ!! だがブチャラティはッ!! (見える・・・。見えるぞ・・・!) ズバッ!ガキンッ!! 「な・・・・え・・?」 ほんの、一瞬の出来事だった。 ワルキューレが剣で見事に切り刻まれていた。そして! 「ぐうッ・・・おりゃぁぁぁぁ!!!」 バキィィン!! 石礫を剣だけでぶっ壊したッ!! 「な・・バ、バカな・・・!こんなはずは・・!」 「・・・・ゲーム・・・・セットだ・・!!」 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!」 右頬、顎、左肩、胸、右膝、両脛… 至る所を殴り付け確実な勝利をもぎ取るッ!! 最後の力を振り絞った渾身のラッシュだったッ!! 「ぶっ!ぐおっ!がっ!ぐあっ!ぐえっ!」 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!」 ドッバァ――――ッ!! 「ブァガァーーーーーーーッ!!」 バラッ! 「アリーヴェデルチ!(さよならだ)」 ドタドタドタッ!! 「う、うわあああああああっ!ぼ、僕の体がぁーーーーーーッ!!」 「ひいいええええーーーーっ!ギーシュがバラバラにぃーーーッ!!」 誰もが悪夢をみていると錯覚したッ!!あのギーシュが!トドメを刺されたと思ったら、次の瞬間、頭!胴体!腰!右腕!右手首!左腕!左手首!右足!左足! 計9パーツのバラバラ状態に変わり果ててしまったのだ! これにはルイズも顔を青ざめさせるッ! 「ブ、ブチャラティ・・・!何も・・!何も殺さなくたって・・!!」 「安心しろ。死んじゃあいない。『今』はな。」 ブチャラティがギーシュに近づく。 「さあ、オレの勝ちだ。ここから先はお前をどうしようとオレの勝手だよな。」 「あ・・・。あ・・。僕は・・・・勝てなかったのか・・?」 ブチャラティが髪のところをニンジンを掘るように持ち上げる。 「さて、ルイズ。約束通り『晒し首』を見せてやったぜ。」 「ぼ、僕は死ぬのか!?このまま死ぬのか!?」 ルイズは口をアングリさせた。 「え・・?生きてる!?どうやって生きてるのコレ!?」 「どうだ?何か感想はあるか?」 「あ、あるわけないでしょ!この馬鹿使い魔!!無茶しすぎよ・・・!」 ルイズはもはや展開についていけなかったが、ギーシュは生きていたので安心したようだ。 そしてブチャラティがギーシュに顔を向ける。 「さてギーシュ!お前はもう死んだも同然だがまだ生きている。 だがそれもいつまでも続かないぞ・・・?そろそろ息が苦しいだろう?」 「い、息が・・・・出来ない・・!」 ギーシュの顔がどんどん赤くなるッ!酸素が足りなくなっているのだッ! 「このまま体に繋がなかったら、そうだな、あと4,5分でマジに死ぬぞ。 それがイヤならこのまま降伏し、あとルイズに対する非礼も詫びてもらおう・・。」 モンモランシーが心配そうに見ている。 「ギーシュ・・・。」 「わかった・・・。僕の負けだ・・・。 ルイズに対する僕の失言についても謝るよ・・・。」 ギーシュは俯いて言った。 「そうか・・・・・・。」 「ブチャラティ・・。もういいじゃない・・。何もここまでやる必要なんてない・・。」 ブチャラティはギーシュの胴体を見る。 「そうだな・・。軽はずみな発言についカッとなってしまったが、コイツはこのまま殺すには惜しいものを持っている・・。ここは『殺害』と言う形ではなく・・・。」 ギーシュの頭を繋ぐ。 「頭だけ繋いで『再起不能』という形にさせてもらおう・・・。残りは他の誰かに繋いでもらうんだな・・・。」 ヨロ・・・。 ルイズが肩を持つ。 「ブチャラティ!大丈夫!?」 「大丈夫・・。一人で歩ける・・。」 「早くケガを直してもらって来なさいよ!もうゆっくり休んでなさい!」 「そうだな・・・。もうオレは疲れた・・・。」 ブチャラティは学院に向かって歩き出した・・。 「バカ・・・。無茶するんだから・・・!」 「ギーシュ!大丈夫か!?」 「ギーシュ!しっかりして!!」 モンモランシー達数名がギーシュの元に駆け寄る。 「う・・ううん・・。」 「ギーシュ!大丈夫!?生きてるわよね!?」 モンモランシーが腕を繋ぎながら言う。 「モンモランシー・・・。すまなかった・・。 結局・・・僕は・・・勝つことが出来なかった・・・。」 「もうしゃべらないで・・!ケガに響くわよ・・・。」 ギーシュは空を向いて言う。 「結局・・。僕は無様なまま終わってしまった・・・。 運命を変える事は・・できなかった・・。」 モンモランシーは少し黙ってから言った。 「そうね・・。あんたは運命を変えられなかった・・。 でもこれだけはいえるわ。運命を変えようとがむしゃらになったあんたの姿は、とても輝いてた。それこそ、どの宝石にも勝るほどにね・・。」 「モンモランシー・・・。」 モンモランシーは続ける。 「あんたは確かに成し遂げる事はできなかった。でも私は見ててこう思った。 本当に大切なのは、何かを成し遂げようと行動する強い意志のほうじゃあないかって。 だから・・・。もういいじゃない・・。もう・・・。」 ギーシュのパーツは修復完了した。 「・・・フ・・。何言ってるのさ・・。いつも言ってるだろう?一番素晴らしいのは 君の、女王陛下も顔負けな神々しい美しさに決まっているじゃないか・・。」 「それだけ口が聞ければ大丈夫そうね。」 ギーシュが手をついて上体を起こす。 「しかし・・・。ブローノ・ブチャラティ・・。結果論とはいえ、結局最終的に彼によって成長のための機会を作ってもらってしまったようなものだ・・。 彼を見ていると、まるで僕を正しい道へと導いてくれるチームリーダーのように見えるよ・・。」 ギーシュは偶然か核心をついていた・・・。 「ルイズ。結局彼は・・・ブチャラティは何者なんだ・・? 彼のあの実戦慣れした動き、能力、何より彼から痛いほど感じられた『覚悟』・・・。 戦い終わってから、急に知りたくなったんだ・・。僕は何者と戦っていたのか・・。」 「・・・アイツは、」 バタッ!! 「あ!アイツ倒れちまったぞ!?」 「ブチャラティ!んもうッ!結局世話かけてッ!!」 ルイズがブチャラティのほうに向かおうとして、一度止まった。 「・・・アイツは、私の使い魔よ・・・。 それ以上でもそれ以下でもない。私が知ってるのはそれだけ。」 そう言って、ブチャラティの元に走っていった。そして思った。 「アイツが何者?そんな事、私が一番知りたいわよ・・・。」 ギーシュもふと呟いた。 「やれやれ・・・。得体の知れない男だ・・。完敗だな・・。」 ―※― ―――――我々はみな『運命』の奴隷なんだ。 形として出たものは変える事はできない・・・。 現に君はその運命によって命を落とした・・・。 誰の・・・声だ・・? ―――――まさか生き返るとは思わなかった。こればかりは僕も見落としていた。 君はまだ運命の形を留めていないのだ・・・。 何だ?何を言っている? ―――――君たちがこれから歩む『苦難の道』にはきっと何か意味があるのだろう・・。 かつて君が・・・かつての仲間達と歩んだあの道のように・・・。 君たちの苦難はやがて、あの少年に受け継がれたように、どこかの誰かに希望として伝わっていくような何か大いなる意味となる始まりなのだろう・・。 僕には何も出来なければ無事を祈ってやることもできないが、君が『眠れる奴隷』であることを祈ろう・・・。 何か意味のあることを切り開いていく『眠れる奴隷』であることを・・・。 ―※― 「・・・ラティさん・・。ブチャラティさん・・・・。」 「ブチャラティさん!!」 起こしたのはメイド服の少女だった・・。 「シエスタ・・。」 「よかった!もう5日も眠っていたんですよ!? 病室だった。どうやら途中で倒れてしまったようだ。 「本当に・・・よかった・・。もしかしたら・・・もう目覚めないかもしれないと思って私もうどうしようかと・・!」 「お、おい・・。オレは大丈夫だから・・涙を拭きなよ・・・。」 ブチャラティが涙を拭いてやる。そして自分の体の異常を確かめた・・。 「これは・・・。ケガが完全に直ってる・・。1ヶ月は安静にしたほうがいいかと思っていたのに・・。」 「ええ、治癒の魔法の効果なんですよ。すごい大怪我だったから直るかどうか 気が気でなかったのですが・・・。でもよかった・・。脈拍も呼吸も良好です!」 「・・!!・・・そうか・・。」 そう言ってブチャラティはふと疑問に思った。 「シエスタ。君がオレを看護してたのか・・?」 「いえ。あなたを看護していたのはミス・ヴァリエールですよ。 シエスタの指した先には、疲れきってブチャラティにもたれかかって眠っていたルイズがいた。 「ブチャラティさんをここまで運んだのも、「『治癒』の呪文のための秘薬の代金を払ってくれたのも、ミス・ヴァリエールなんです。」 ブチャラティがルイズの肩に毛布をかけてやって言う。 「後で、礼をいわなくちゃあいけないな……秘薬って、やっぱり高いのかい?」 「平民に出せる金額でないことは確かですね」 そう言って、意地悪そうにシエスタは笑った。 「5日間ずっと付きっきりで看護していたんですよ・・。包帯を取り替えたり、顔を拭いたり……。 ずっと寝ないでやってたから、今はお疲れになったみたいですけどね」 「そう・・・・か・・・・。」 ブチャラティはルイズの寝顔を見ながら、どこか微笑ましい気持ちになった。 「んん~。アンタご主人様を心配させるんじゃないわよ・・・。ムニャ。」 「生意気で、ワガママで、傲慢な女だと思っていたけど、けっこうカワイイところがあるもんだな。 ・・・・ありがとうな。ルイズ。」 ブチャラティは頭を撫でながらそう言った。 そして思った。オレの命を救ってくれた恩を返すまでは・・・。 そして、イタリアに変える方法を見つけるまでは・・・。 ――――――――――――――――こいつの使い魔でいても、いいかな 「あーオホン。お取り込みのところ悪いんだけど・・。」 全身包帯グルグル巻きの正体不明の男がいた。だがその声に 聞き覚えがあった。自分の声に似てたから。 「もしかして、ギーシュか?」 「ああ、正真正銘"青銅"のギーシュ・ド・グラモンさ。」 だがその痛々しい姿はブチャラティもビビッた! 「お前・・・そんな怪我になるほどぶん殴った覚えがないんだが・・・。」 「まあ・・・いろいろあってね・・・。実は・・・二股ではないことがバレたんだ・・。」 ―※― 「さあ、アンタも治療を受けにいくわよ。」 「ああ・・・。」 ギーシュ様―――――――――――!!!!! 「「えっ!?」」 「ギーシュ様!お怪我は大丈夫ですか!?」 「負けてもかっこよかったですよ!ギーシュ様!」 「すぐ応急処置を!私"水"使いだから直せますよ!」 「何よ!私だってできるわそれくらい!」 ガヤガヤ!ゴタゴタ! ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・・・ 「ひい、ふう、みい・・・・12人ね。ケティも入れたら合計十四股だったって事・・。 ふぅ~~ん・・・。」 ギーシュが身の危険を感じ取るッ!! 「じょ・・じょうだんだってばさぁモンモランシー!ハハハハハ。 ちょ、ちょっとした茶目っ気だよぉ~~ん!たわいのないイタズラさぁ! やだなぁ、もう! ま…まさか、もうこれ以上殴ったりしないよね…? 重症患者だよ。全身骨折してるし絶対安静にしてないと・・・。ハハハハハハハハハハ・・。」 「もうアンタにはなにもいうことはないわ・・・。 ・・とてもアワレすぎて・・・。 何も言えないわ。 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!」 「ちょ、やめ!骨折部分にひび・・グワァ!!」 右頬、顎、左肩、胸、右膝、両脛… 至る所を殴り付け断罪を下すッ!! 怒りの力を振り絞った渾身のラッシュだったッ!! 「ぐあっ!ぐえっ!わ、悪かった!僕が悪かったからもう・・!ゆるグパァ!!」 「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ!!!!!」 ドッバァ――――ッ!! 「ブァガァーーーーーーーッ!!」 バラッ! 「アリーヴェデルチ!(さよならよ)」 ―※― 「と言うわけで・・ね・・。」 「・・・・・そうか・・。それで、もう懲りたのか?」 「まさか!僕はグラモン家の人間だよ?これからも全ての女性を愛でる薔薇でいつづけるよ。 それより、君には負けた。君の黄金の精神にはいずれ一矢報いて見せるよ。 これからもよろしく!ハッハッハ!」 ブチャラティは半ば呆れつつも、 「やれやれ、これからもいろいろ大変そうだ。」 半ば楽しみにしていたりもするブチャラティだった。 ギーシュ・ド・グラモン――――再起不能――――まさかのダブルアリアリで 全治半年(『治癒』のおかげでで2週間) モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ―――それでもギーシュの看護を行った。 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール―――部屋に連れて行ってもらうとき ブチャラティに お姫様ダッコを されていたことに顔を赤らめ、ぶん殴る。 シエスタ―――――――その騒動の後、ブチャラティに食事を作ってやる。 ブローノ・ブチャラティ――――再起不能から離脱。 to be continued・・・-
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「そういえば聞いてなかったけど…ルイズ、あなたは何しに実家に行くの?」 ワインを飲みながらキュルケがルイズに問いかける。 「それは…その…」 ハシバミ草のサラダを食べるタバサを見ながら、どこか後ろめたそうな声で答える。 「私のお姉さまが病気がちで…」 「ふ~ん…でイクローに治してもらおうってわけね」 朝食をとってすぐ、育郎達はルイズの実家に向かうべく出発し、昼過ぎには領地に つくことが出来た。ヴァリエールの領地は広いとはいえ、竜ならすぐの距離である。 しかし、そこで軽く食事をしたいというキュルケの提案があった。 「だってずっとシルフィードの背中でお腹が空いたじゃないの。 ヴァリエールの屋敷についても、すぐに食事というわけにはいかないでしょ?」 まったくその通りで、さらには自分もお腹がなり始めていたいたので、ルイズは 文句を言いながらも賛成し、近くの旅籠で休む事にしたのだ。 「うん…」 「なによ、ひょっとしてタバサのお母様が治らなかったから遠慮してるの? そんな事タバサは気にしないから安心しなさいな。ね、タバサ?」 その言葉に、変わらぬ調子でハシバミ草を食べ続けるタバサが頷く。 「ほらね。イクローもそんな顔してないで。 まったく治らなかったわけじゃないんでしょ? 出発した時に、ベルスランもあんなにお礼を言ってたじゃない」 「そうだな…すまないキュルケ、気を使わせて」 「いいのよ。だいいち、沈んだ顔で食事してもおいしくないじゃない」 そう言って笑うキュルケのおかげで、その場の雰囲気がやわらぐ。 「にしても公爵家ってだけあって、娘っ子の家はずいぶんてーしたもんみたいだな」 傍に立てかけてあるデルフが呟くと周りから歓声が挙がった。 「おおー、さすがルイズ様がお連れなさった方だ。喋る剣をお持ちだなんて」 「貴族でねえって言ってらしたが、さぞかし名のある方にちげえねえ!」 「お連れの貴族様も名のある方だろうに、さすがルイズ様だあ」 等と、ルイズが来たと知って集まってきた村人達が騒ぎ出す。 「そうだね」 軽く周りを見回しながら、育郎がデルフの言葉に同意する。 「あら、そうかしら?」 「………」 対するキュルケとタバサはごく当然と言う顔をしている。 育郎はその事に感心するが、自分も最近は似たような状況で食事をしているためか、 以前なら気後れするような状況でも、自分が普通に食事している事に気付く。 シエスタをモット伯から助け出してからというもの、貴族からはあいかわらず恐れ られてはいるが、育郎は平民の間で、まるで英雄のような扱いを受けるように なっていた。それもシエスタのおかげなのだろうが、逆にそのシエスタのおかげで 困っているとも言えるのだ。 「俺は感動したぜ!初めて知った人の愛、その優しさに目覚めて、裏切り者の名を 受けて、全てを捨てて魔王に戦いを挑むなんてよ! 俺の料理が食いたくなったらいつでも言ってくれ!」 とはコック長のマルトーである。 どうやらどんどん話が大きくなっていったらしい。 このような状況に慣れ始めているのは、色々とまずいのではないかと育郎が考えて いると、外にいる村人達がにわかに騒ぎだした。耳を傾けてみると、竜だの お嬢様等という単語が聞こえてくる。どういうことかと思っていると、いきなり ドアが勢いよく開き、そこから金髪の女性が旅籠に入ってきた。 「え、エレオノールお姉さま!ど、どうしてここに?お仕事でいないはずじゃ?」 ルイズの言葉を無視して、金髪の女性はルイズに歩み寄り、その頬をつねる。 「その言い方だと、私がここにいたら悪いみたいじゃないちびルイズ!?」 「ひてゃい!わ、わりゅくないでしゅ!」 頬を引っ張られながら弁解するルイズ。 「気を利かせた村人が、貴女がここに着いたと知らせたのよ。 それで休みを取ってた私が、竜に乗って迎えに来たってわけ。わかった?」 「わかりまひた!ひゃからちゅねらにゃいでおねーひゃま!」 「ねえ、この人が貴女のお姉さんなの?」 二人の様子にあっけにとられながらも、キュルケが口を開く。 「病気にはとても見えないんだけど…ひょっとして小さいのを治すの? ああ、それは貴女も一緒か、さすが姉妹ね」 そう言って、ルイズがエレオノール姉さまと呼ぶ女性の胸を指差す。 なるほど、見ればその胸は遠慮しがちというか、自己主張が薄いと言うか、ルイズ と同じタイプのスタンドというか、ぶっちゃけ小さかった。というか無かった。 「遺伝」 タバサのとって置きの駄目押しの言葉で、周囲の空気が完全に凍りついた。 「あ、あんたらね!?」 ルイズが怒りの声を上げようとしたその瞬間、姉の声がルイズの耳に届く。 「ルイズ…」 「ひゃ、ひゃい!」 酷く冷えた自分の姉の声に脅えるルイズ。 「ねえ、ルイズ…貴女のお友達は随分と面白い人たちみたいね? よければお名前を教えてくださらない?」 そう言って視線をキュルケたちに向ける。そのあまりの迫力に、近くに立っていた 村人が腰を抜かすが、キュルケは涼しい顔でその視線を受け止める。 ちなみにタバサは、ハシバミ草のサラダのおかわりを要求した。 にやりとキュルケは笑い、馬鹿丁寧なしぐさで礼をする。 「これはこれはご丁寧に。名乗るほどではありませんが、キュルケ・アウグスタ・ フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーと申します」 ツェルプストーという単語、ヴァリエール家の宿敵を意味する名に、エレオノールの 迫力に圧されていた村人達がざわめく。 「つぇるぷすと~?おちび!どういうこと!? 何であなたがツェルプストーの人間と友達なの!?」 「と、友達なんかじゃ」 「だまらっしゃい!」 「ひゃん!ひゃめ、いでゃいいでゃい!」 「ふう。まったくこの子は、昔っから心配ばかりかけて」 「うぅ…まだひりひりする…」 思いっきりつねられた頬をさするルイズを横目に、エレオノールは改めてキュルケ 達に向き直る。 「それで…カトレアを治療するメイジはどっちなの?そっちの小さい子?」 タバサが首を振る。 「じゃあ、やっぱりツェルプストーの方なのね…じゃなけりゃルイズだって、 ツェルプストーをヴァリエール家に招くなんて」 「あら、私でもないわよ」 「じゃあ誰よ?」 タバサとキュルケが育郎を指差す。 「………ねえルイズ?」 「な、なんですかお姉さま?」 「彼、マントもつけてなければ、杖も持ってないようだけど…」 「そ、そうですね」 「私にはどうしてもメイジに見えないのだけれども…気のせいなのかしら?」 「いえ、その…気のせいじゃないでいだだだだだだだ!!!」 再び頬をつねりながら、エレオノールが怒鳴る。 「おちび、あなた何考えてるの!カトレアは水のスクエアに診て貰っても駄目 だったのよ?平民の医者なんかが治せるわけないでしょ!!本当にこの子は…」 「あの、お姉さんそれぐらいで…ルイズもずいぶん痛がってますし、そんなに つねったら跡が残るかもしれないじゃないですか?」 「貴女は黙ってなさい!まったく平民が気軽に貴族に話しかけるなんて… でも一理あるわね…跡が残らないように、反対側の頬をつねる事にするわ」 「いや、そうじゃなくて…」 止めようとする育郎を無視して、ルイズに折檻を続ける。 「残念ながらイクローは唯の平民じゃないわよ」 頬をつねりながら、キュルケを見るエレオノール。 「どういう事かしら、ツェルプストー?」 敵意の篭った目でキュルケを見つめるエレオノールの傍で、ルイズが身体が固まる。 「彼はね、東方の亜じ」 「ちょおおおおっとキュルケ!貴女に話があるんだけれども!」 「あ、こらルイズ!」 エレオノールから強引に逃れ、後が恐いが、とにかくキュルケの首根っこを捕まえ、 部屋の隅に連れてゆく。 「ちょっと何するのよルイズ!」 当然の如く抗議の声をあげるキュルケに、ルイズが回りに聞かれないように、 小さな声で伝える。 「イクローが、その…亜人だって事は内緒にしといて!?」 「なんでよ?」 「エレオノールお姉さまはアカデミーの研究員なの!」 「ああ…そういう事」 アカデミーと言えば、人体実験も辞さないと噂される研究機関である。確かにそんな 人間が、珍しい東方の亜人のことを知れば、当のイクローは唯ではすまないだろう。 「何?東方の医者とでもいうの?」 「そそそそうなんです、お姉さま!ね、キュルケ?」 「まあ、そういう事」 「東方…ねぇ」 育郎に疑わしげな目を向けるエレオノール。 確かに東方といえば、エルフが治める地である。その地の技術は、あらゆる点で ハルケギニアのどの国よりも優れていると言われている。 「その話、本当なの?」 「え?あ、はい、そうです」 しかし、それ故に東方産と偽って詐欺等を行う輩が存在するのである。 実際エレオノール自身、『東方から来た!』等と言う謳い文句の豊胸グッズに 7回ほど騙されている。ちなみにルイズは、まだ2回騙されただけである。 「あら、イクローが嘘をついてるとでも? ご心配なく、彼はこの子の使い魔なんですもの」 疑わしげな視線を育郎に向けるエレオノールに、キュルケが答える。 「はぁ?平民が使い魔ぁ?」 またつねられてはたまらないと、ルイズが続ける。 「そうなのお姉さま!ほら、イクロー。使い魔のルーンを見せて」 言われたとおりに左手のルーンを見せると、やっとエレオノールも納得した。 「まったく…使い魔が平民だなんて…」 溜息をつきながらそう呟く姉に、ほっと胸をなでおろすルイズ。 「そういえば、お姉さまはどうして休みを?やっぱりちい姉さまが心配で?」 蒸し返されても困るので、話題を変えようと話を振る。 「まあ、それもあるんだけど…ちょっとね」 何処か嬉しそうなエレオノール。 「そういえば昨日、どこぞの貴族様がエレオノール様と一緒に、 お屋敷に向かったって聞いたぞ」 「そういえば少し前に、エレオノール様が婚約なされたって話があったよな?」 「おお、という事は公爵様に挨拶に来られたにちげえねえ」 村人達の言葉に、やあねぇだの、もうそんな話が広まってるの、等と言いながらも まんざらでもなさそうな様子のエレオノール。 「ご婚約おめでとうございます、エレオノール姉さま」 「ありがとう、ルイズ」 素直に礼を言う姉に驚愕しながらも、これで今日はもうつねられる事はないと 安堵するルイズ。 「それで、その婚約者はどのような方ですの?」 問いかけるキュルケの顔は、酷く楽しそうな顔だったのだが、幸せを味わっている エレオノールはそのことに気付かない。 「バーガンディ伯爵さまは…」 嬉しそうに婚約者の話をしだすエレオノール。 「ねえ、キュルケ…あんたひょっとして」 「なーに、ルイズ?」 「変なこと考えてないでしょうね?」 「別に」 「…ならいいけど」 「いい男だったら手を出そうかなって考えてるだけよ。 ヴァリエールから恋人を奪うのは、ツェルプストーの伝統だし」 「あんたねえ、絶対やめてよね!」 そのころ話題のバーガンディ伯爵は。 「申し訳ありません…この婚約はなかった事に!」 婚約解消のため、ヴァリエール公爵に頭を下げていた。 「エレオノールに何か至らぬところでもあったかな?」 白くなりはじめた口ひげを揺らし、渋みがかかったバリトンで伯爵に問いかける。 「いえ…そんな…」 モノクルをはめた目の、鋭い眼光に脅えながら答える。 「エレオノールは素晴らしい女性です!気高く、そして美しい。しかし…」 一旦言葉を区切って、伯爵が言葉を続ける。 「もう………限界なのです!」 苦渋の顔でそう答えるバーガンディ伯爵をから目を離し、隣に立つ、 長年ラ・ヴァリール家の執事を務めてきたジェロームに視線を移す。 「………」 無言で首を振るジェロームを見てから、公爵はおもむろに立ち上がり、 頭を下げたままの伯爵に歩み寄った。 「バーガンディ伯爵…」 公爵の言葉に、ビクリと身体を震わせる伯爵。 今の彼の行動は、天下のラ・ヴァリエール公爵家の名誉に泥を塗る行為なのだ。 「…いままで良く頑張ってくれた!」 「へ?」 しかし、怒りの言葉を待ち受けるバーガンディ伯爵の耳に届いたのは、 意外にもねぎらいの言葉だった。 「まったくエレオノールのあの性格はいったい誰に似たのやら…なあ、ジェローム」 「それは私の口からはとても…」 「いえ、あの…」 「うむ、それもそうだな。わしとて気軽に言えん!」 「ご理解していただきありがたく存じます」 「その、ですから」 「おお、これはすまなかった伯爵。ジェローム、竜の用意を。 エレオノール達が帰ってくる前に出発できるよう急がせろ」 「はい、承知いたしました」 そう言って、部屋から出て行くジェロームを見送ってから、バーガンディ伯爵が 恐る恐る公爵に問いかける 「……その、良いのですか?」 「しかたあるまい…無理をして一緒になってもな…無理をしなくとも、たまに きつい時があるのだから…いや、ごくまれにだ。あれも丸くなったし。 そもそもわしはそういう事にならないよう、いつも気をつけておるしな! いや、普段は素晴らしいのだよ。勘違いをしてはいかんぞ」 「は、はぁ…」 いまいちよくわからないが、とにかく助かった事に安堵する伯爵であった。
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6話 「諸君、決闘だ!」 そう言ってギーシュが薔薇の造花の杖を掲げると、周囲から大きな歓声が上がった。 ヴェストリの広場にはすでに多くの生徒が集まり、ギーシュとホワイトスネイクを取り囲んでいる。 ルイズは生徒の輪の最前列で、ホワイトスネイクの背中をじっと見つめていた。 「さて、逃げずに来たことは褒めてあげるよ」 「部屋ノ隅デ震エテイルコトヲ選バナカッタノハ立派ダッタナ」 食堂での応酬と同じように、ホワイトスネイクから挑発が返される。 「ふん、では始めさせてもらうよ」 そう言ってギーシュが杖を振ると、杖から薔薇の花びらが一枚離れた。 だが次の瞬間、薔薇の花びらは甲冑を着た女戦士の人形へと変わった。 人形は金属製らしく、全身が淡い金属光沢を放っている。 「ホーウ……」 ホワイトスネイクが感嘆した声を上げる。 「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。文句はないだろう?」 「御託ハイイカラサッサトソノ人形デ仕掛ケテコイ」 「そうかい、では遠慮なく」 ギーシュが言い終わるのと同時に女戦士の人形が走り出す。 が、数歩で立ち止まった。 「おっと、そういえばまだ名乗っていなかったな。 僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。 したがって僕の青銅のゴーレム、ワルキューレが君の相手をするよ」 そう言ってまたフッとカッコつけた。 ただこれがやりたかったがために女戦士の人形――ワルキューレを止めたようだ。 「では、いくぞ!」 その声とともに、再び走り出すワルキューレ。 ホワイトスネイクとの間合いを一気に詰める。 そして自身の拳の間合いにホワイトスネイクをおさめると、すかさずパンチを放ったッ! ぶおん、と空気を切り裂く青銅の拳はホワイトスネイクのボディへと一直線に向かい―― グワシィッ! 受け止められたッ! 「な、なんだってぇ!?」 (コノ威力……パワーハCッテトコカ。 私ノ方モパワーCガ妥当。ルイズハ近クニイナイシ、コノ距離ナラ当然ダナ) 驚くギーシュと、相手と自分を冷静に評価するホワイトスネイク。 「今度ハコチラノ攻撃ダ」 ホワイトスネイクは素早くワルキューレの懐に潜り込む。 そしてその伸びた腕を掴むと、一気に反動でワルキューレの体を宙に浮かせ―― ドグシャアッ! 頭から地面に叩きつけたッ! 「『ジュードー』トカイウヤツダ。パワーノ弱イ私ニハ、ウッテツケノ技デナ」 「な、な、な……」 予想だにしなかった事態にギーシュは言葉を失う。 彼の目の前で地面に突き立てられたワルキューレはしばらく手足を動かしていたが、すぐに墓標みたいに動かなくなった。 そしておろおろするギーシュとは逆に生徒達は大歓声を上げた。 「すっげぇーぜ、今の! あいつ、何やったんだ!?」 「ワルキューレを頭から地面に叩きつけるなんて……」 「野郎……面白くなってきたじゃねーか」 そしてルイズも、予期しなかったホワイトスネイクの実力に唖然とする。 「な、何なの? 今あいつがやったの……?」 「特別な体術」 「……え?」 「彼は体の反動を使ってゴーレムを投げ飛ばした。 力任せに投げたのとは違う」 いつの間にかルイズの横に立っていたタバサが解説する。 「な、何であんたがここにいるのよ! っていうか今の説明……」 「この子が自分で見たいって言ったのよ、ルイズ」 「あっ、キュルケ!」 「ご機嫌いかが? 今朝は危うく寝坊するところだったそうじゃないの」 「う、うるさいわね! ちゃんと朝食には間に合ったんだからいいじゃないの!」 「はいはい。それでタバサ、あいつはどうなの?」 「分からない。動きに余裕があるから、まだ何か隠してるのは確実」 「ふ~ん……それは楽しみ。っと、そろそろ動きそうね」 一旦止まった戦いが、再び動き始める。 場所は変わってトリステイン魔法学院の学院長室。 ギーシュとホワイトスネイクの決闘が始まる、数分前のことだ。 「暇じゃのう……」 「平和ですからね」 「何かこう、面白いことでも起きんかのう……例えば決闘とか」 「学院長自らが風紀を乱さないでください。それと」 「何じゃ、ミス・ロングビル」 ドグシャァッ! 「ぶげぇッ!」 「私のお尻をなでるのはやめてください」 華麗なハイキックで老人を椅子から蹴倒す女性は、ミス・ロングビル。 反対に椅子から蹴倒された老人がオールド・オスマン。 ロングビルはオスマンの秘書で、そのオスマンはこのトリステイン魔法学院の学院長を務めている。 「あいたたた……」 ミルコ・クロコップのようなハイキックをモロに食らったにもかかわらず、何もなかったかのように立ち上がるオスマン。 「今度やったら王宮に報告しますからね」 「ふん。王宮が怖くて学院長が務まるかい」 オスマンはふてくされたように言うと、床から何かを拾い上げた。 「気を許せる友達はお前だけじゃ、モートソグニル。 ん、ナッツが欲しいのか? ちょっと待っておれ」 オスマンはポケットからナッツを数粒取り出すと、 手の上にちょこんと乗っているハツカネズミのモートソグニルに近づける。 モートソグニルはちゅうちゅうと鳴いて喜ぶと、ナッツをかじり始めた。 「ん、どうじゃ? うまいか? もっと欲しいか? じゃがその前に報告じゃ、モートソグニル。 ……ほうほう、純白かね。だがミス・ロングビルは黒にかぎ」 ボグォッ! 「うげぇっ!」 オスマンの言葉を遮るようにして叩き込まれたのは、胃袋に正確に打ち付けられるヒザ蹴りッ! そして頭から床に倒れこんだオスマンに、さらに追撃の後頭部への踏みつけッ! ゲシッゲシゲシィッドガッドゴオッドゴッドゴッ! 「分かった! 分かったから! ちょ、やめるんじゃミス・ロングビル! 痛い! 痛いからッ!」 そんなふうにしてオスマンがロングビルに蹴り回されていると、不意にドアが大きな音を立てて開いた。 「オールド・オスマン!」 「何じゃね?」 そう答えたオスマンは、すでに床の上でなく椅子の上に座っていた。 まるで何もなかったかのようだ。 ロングビルも同様に、部屋の隅の椅子に腰かけて物書きをしている。 まさに早業である。 学院長室のバイオレンスな日常はこうして保たれているのだ。 「たた、大変です!」 そう言って広すぎる額を汗で光らせているのはコルベール。 使い魔召喚の儀式に立ち会っていた教師だ。 「なーにが大変なもんかね。どうせ大したことのない話じゃろうて」 「そんなこと言わずに! こ、これを見てください!」 そう言ってコルベールがオスマンに突き出した本のタイトルは「始祖ブリミルと使い魔たち」。 「ほーう……それでこの古い本がどうしたのじゃ?」 「その本の……このページです! それと、これを!」 コルベールが本のページと、一枚のルーンのスケッチをオスマンに見せる。 オスマンの目が本とスケッチを素早く行き来した。 その眼は先ほどまでの好々爺の目ではない。 熟練の魔法使い特有の、鷹のように鋭い目だった。 「ミス・ロングビル。少し席をはずしてもらえるかね?」 「かしこまりました」 ロングビルはそれだけ言って、学院長室を出た。 と、入れ替わりに一人の教師が血相を変えて飛び込んできた。 「オールド・オスマン! い、一大事です!」 「今度は何じゃ?」 オスマンが眉間にしわを寄せて言う。 「それが、ヴェストリの広場で決闘をしている生徒がいるようで……」 「決闘? やれやれ……暇を持て余した貴族は、本当にロクなことをせんのう」 今さっき暇を持て余して「決闘でも起きないかな」とか言った揚句にセクハラしていた男とは思えないセリフである。 「それで、決闘しとるのはどいつじゃ?」 「は、はい……一人はギーシュ・ド・グラモン。もう一人は……」 「グラモンのとこのバカ息子か。どーせ女の子の取り合いでもしたんじゃろうて。それでもう一人は誰じゃ?」 「もう一人は……その、私も信じられないのですが……」 「何じゃ、早う言うてみい」 「……亜人です。昨日ミス・ヴァリエールが召喚して、契約したやつです」 思わず顔を見合わせるオスマンとコルベール。 「よろしい。ではその決闘は放っておきなさい」 「ええ!? い、いいんですか? 教師の中には『眠りの鐘』の使用許可を求める者もいますが……」 「……ギーシュ・ド・グラモンと戦う亜人はどんなヤツじゃね?」 「へ? は、はあ……ミス・シュヴルーズの話では、言葉も話せるし授業も聞けるとのことでしたが……」 「つまり頭はいいんじゃろ? だったらやり過ぎるようなことはせんハズじゃ。放っといて構わんよ」 「そ、そうですか……」 そう言って教師が学院長室を出て行くのを見届けると、壁にかかった大きな鏡に杖を振った。 すると、その鏡にある光景が映し出される。 ヴェストリの広場の、今まさに行われている決闘の光景だった。 鏡の中ではギーシュと亜人――ホワイトスネイクが向き合い、 二人の間にギーシュのゴーレムが頭から地面に突き立てられていた。 「……コルベール君。わしの判断は合っておったと思うかね?」 「まだ分かりません。でも、間違っていたと分かった時には全てが手遅れでしょう」 「そうじゃな……そうならんようにせんとなあ」 机の上でナッツをかじっていたモートソグニルが不意にぴょんと窓に飛び移ると、そのまま外に出て行った。 戦いが動いたのは、ちょうどその時だった。 場所はヴェストリの広場に戻る 「ふふ……ま、まさか僕のワルキューレを倒すとはね。な、中々やるじゃあないか。 だが、これで終わったと思うなよ!」 冷や汗をぬぐいながらギーシュが再度薔薇の造花の杖を振るう。 杖から離れた花びらは6枚。 それらが宙に舞い上がって、6体のワルキューレになって地面に降り立ったのはやはり一瞬の出来事だった。 「おいおいおいおいおいおい! ギーシュのやつ、出せるワルキューレの残り全部出したぞ!」 「あれで頭に血が上っちゃったのかなあ?」 「そりゃああんなの見せられたらなあ……」 ギーシュの陣容に生徒も驚きの声を上げる。 だが―― 「サッキノガ6体カ。面白クナッテキタジャアナイカ」 ホワイトスネイクは焦り一つ見せずに、むしろ楽しそうに言った。 「ふふん、そうやってのん気してられるのも今のうちさ。 考えてもみなよ、君? 6対1だぜ? 勝てっこないよ。 もし君が僕に『ごめんなさい』と言えば」 「脳ミソガクソニナッテルラシイナ」 「な、なんだとお!?」 「ソンナ寝言聞イテルヒマガアッタラサッサトソイツラヲ私ニ差シ向ケロ」 「……そうか、そんなに死にたいんだったら!」 ギーシュが杖を振るうと、ワルキューレたちの目の前の地面から武器が突き出てきた。 剣、両手剣、長槍、ランス、斧、スレッジハンマー……。 いずれも大変な重武装だった。 そしてワルキューレたちが、それらを手に取り、ホワイトスネイクに向けて構える。 「今ここで殺してやるッ!」 ギーシュの声とともに、一斉にワルキューレがホワイトスネイクに襲い掛かる。 やられる! 次の瞬間に訪れているであろう凄惨な光景に、思わず目をつむるルイズ。 その直後に大きな歓声が上がった。 やられ、たんだ。 あいつが、あのにくたらしい嫌味な使い魔が、ホワイトスネイクが! ルイズが絶望に近い、うすら寒い感情が自分の心に湧きあがってくるのを感じる中、 その肩をぽんぽん、と叩かれた。 思わずルイスは振り向く。 「なーに目なんかつむっちゃってるのよ、ルイズ」 キュルケだった。 「でも、でもあいつが!」 「自分の使い魔の安否ぐらい、自分で確かめなさいよ」 そう言われて、顔を正面に向けられるルイズ。 その目に飛び込んだ光景は―― (私ノスピードハA。上々ダナ。 ソレニ対シテコイツラハCッテトコカ。 何テ、スットロイヤツラナンダ) ホワイトスネイクはワルキューレたちの有様に呆れながら、大振りの斧の一撃をやすやすとかわす。 その後ろから飛び込むようにして襲ってきたランスの突きも、とっくに見えていた動きだった。これも難なくかわす。 さらに両手剣の横薙ぎ、長槍の連続突き、スレッジハンマーの振り下ろしが立て続けにホワイトスネイクに向かってくる。 だが、全部遅すぎた。 スキを窺うようにして仕掛けてきた、剣を持ったワルキューレの攻撃も見え見えの奇襲にすぎなかった。 軽くかわして、ついでに足を引っ掛けてやった。 ワルキューレが無様にすっ転んで地面を転がる。 そうやってホワイトスネイクがワルキューレをあしらうたびに、周りの生徒たちから歓声が上がった。 あの亜人は何なんだ? 何であれだけ武装した、しかも6体もいるワルキューレ相手にあんなことができるんだ? なんてヤツなんだ、あの亜人は! そんな呆れたような、あるいは感嘆したような感情が彼らの歓声の源だった。 「あいつ……すごい」 「そうね。あんなに大きいのに、あんなに身のこなしが軽いなんて、感心しちゃうわ。 ……でも彼、攻撃はしないのね」 「さっきみたいな投げ技は使えない。かと言って青銅のゴーレムを一撃で破壊できるようなパワーは彼にはない」 「……何で分かるのよ?」 タバサの推測にルイズが異議を唱える。 「一発ぶん殴っただけでワルキューレを壊せるなら、最初の一体をそうやって壊してるじゃない?」 「あ……そ、それもそうね……」 「でもキュルケの言うとおり。このまま避け続けてもそれだけじゃ意味がない」 「じゃあ彼はどうするのかしら?」 キュルケがタバサに尋ねる。 タバサの視線の先には前後をワルキューレに挟まれたホワイトスネイクがいる。 前のワルキューレは斧を、後ろのワルキューレはランスを構えている。 「彼は、避ける」 タバサが呟くように言った。 前門のワルキューレが斧を振りかぶる。 後門のワルキューレが構えたランスをホワイトスネイクの背中に突き出す。 瞬間、ホワイトスネイクは地面を強く蹴り、宙に飛んだ。 斧のワルキューレとランスのワルキューレが、互いに攻撃すべき相手を見失い―― 「避けて同志討ちさせる」 ズゴォッ! 互いの得物が、互いに直撃したッ! 一方のワルキューレは胴体をランスで穿たれ、もう一方のワルキューレは斧で首を跳ね飛ばされていた。 「くそッ、だが!」 ギーシュは毒づきながらもすぐにハンマーを携えたワルキューレをホワイトスネイクの着地点に先回りさせる。 自由落下するホワイトスネイク。 それを待ち受けるワルキューレ。 ホワイトスネイクはそれにちらりと目をやると、小馬鹿にしたように笑った。 そしてワルキューレのハンマーの射程に、ホワイトスネイクが入ったッ! 「今だッ!」 ゴヒャァァッ! ギーシュの声に応じ、ワルキューレは打ち上げるようにハンマーを振るうッ! だが、手ごたえなし。 ハンマーがホワイトスネイクを粉砕する音は、響かなかった。 (あれ? 何だ? 何が起きた?) 混乱するギーシュをあざ笑うかのように、ホワイトスネイクはワルキューレの背後にすとんと着地した。 「言イ忘レタガ……私ハ射程圏内ノ空中ヲ自在ニ移動デキル。 空中デ一旦停止スルクライ、造作モナイコトダ」 そう言ってホワイトスネイクは腰を落としてワルキューレの胴体に腕を回し、ガッチリとロックする。 そしてッ! メシャッ! バックドロップだッ! 後頭部から地面に叩きつけられたワルキューレは、自重と落下の衝撃で簡単に自分の首を手放した。 「くそぉぉぉーーーーーーーッ!!」 やけくそになったギーシュが残る3体のワルキューレでホワイトスネイクを取り囲む。 「やれぇッ!」 ギーシュの号令で、3体が一斉にホワイトスネイクに襲い掛かる。 「『ギーシュ』・・・・・・ダッタカ。ヤハリオ前ハ……」 ホワイトスネイクは3体の攻撃を容易く避ける。 さっきのようなそれなりのコンビネーションもない、 ただ3体が一緒に仕掛けてくるだけの攻撃などホワイトスネイクには何の意味もなさない。 ゆえに今回、ホワイトスネイクは避けるだけではなかった。 攻撃を避ける間際にワルキューレたちの武器の切っ先、矛先をわずかにずらしていた。 そしてホワイトスネイクが3体の包囲から抜けると同時に―― 「タダノ、馬鹿ダッタナ」 ガッシィィーーンッ! 3体のワルキューレは一体化していた。 互いの武器で、互いの胴体を貫きあって。 「そ、そんな、ぼ、ぼぼ、僕の、ワルキューレが……ぜ、全滅……」 ギーシュがかすれた声でそう呟いたのと、ヴェストリの広場が大歓声に包まれたのはほぼ同時だった。 「や、やりやがった! あいつ勝っちまった!」 「ブラボー……おお、ブラボー!」 「グレート! やるじゃあねーかよ」 そして驚いていたのは、ルイズも同じだった。 「あいつ、あんなに強かったんだ……」 「すごぉーい! いいカラダしてるとは思ってたけど、まさかこんなに強いなんて! あたし、彼のこと気に入っちゃったかも……」 「ちょ、キュルケ! あんた本気なの!? っていうかあれはわたしの使い魔よ!?」 「そんなの関係ないわ。恋ってのは突然訪れるものなの。 ツェルプストーの女はそれに何よりも忠実なのよ」 「そういう問題じゃないでしょ!」 「二人とも静かに」 唐突にルイズとキュルケの会話をタバサが遮る。 「どうしたの、タバサ?」 「様子がおかしい」 「え……?」 タバサの言葉に従い、ルイズとキュルケは広場の中心に目を向ける。 そこにあったのは、腰を抜かして地面にへたり込むギーシュと、彼にゆっくりと歩み寄るホワイトスネイクの姿。 「お、お前! ぼぼ、ぼ、僕に、何する気だ!」 「私ガコノ決闘ヲ楽シミニシテイタ理由ハ3ツ」 一歩ホワイトスネイクが近づく。 しかしギーシュは動けない。 「ち、近寄るな! 来るなあ!」 「1ツ目ハハメイジノ戦イノ一端ニ触レラレルコト。 私ハコノ世界ニ来テマダ日ガ浅イ。 ナノデコノ世界ノ一般的ナ戦イニ直ニ触レラレタノハトテモ価値ノアルコトダッタ」 また一歩ホワイトスネイクが近づく。 しかしギーシュは動けない。 「なな、何言ってるんだお前! や、やめろ、近づくな! 来ないでくれ!」 「2ツ目ハ自分ノ戦闘能力ノ現状ヲ測レルコト。 ヤハリ戦闘能力トイウヤツハ実戦デシカ測レンカラナ。 コッチニ来テカラ私自身ガ弱クナッテイルコトモ心配ダッタカラナ」 ホワイトスネイクが、ギーシュに手の届く位置まで来た。 しかし……ギーシュは動けない。 「そ、そうだ! ぼくが悪かった。ぼ、ぼくが悪かったんだ、だから……ひぃっ!」 「ソシテ3ツ目ハ……」 ホワイトスネイクがギーシュの胸元を掴んで無理やり立たせる。 ギーシュは動けない。逃げられない。 そして「それ」が行われる。 「だから許し」 ドシュンッ! 空気を切り裂くような音とともに、ホワイトスネイクの貫手がギーシュの額に突き刺さった。 「3ツ目ハ、オ前ノ記憶ト『魔法ノ才能』ヲ得ラレルコトダ」 「あいつ、やりおったわ!」 「遠見の鏡」で決闘を見ていたオスマンが叫ぶ。 同じく決闘を見ていたコルベールは既にここにはいない。 ヴェストリの広場に行ったのだろう。 「まさかとは思っとったが……ええい、モートソグニル!」 遠い場所で決闘を見張らせていた自分の使い魔の名を呼ぶオスマン。 すぐに返事と思しき鳴き声が返ってくる。 「眠りの鐘じゃ! すぐに鳴らせぃ!」 言うが早いが、オスマンは素早く杖を抜いてルーンを唱える。 「サイレント」の呪文だ。 その鐘の音の響くところにある者をことごとく眠らせる眠りの鐘。 響きは音としては学院長室まで聞こえなくとも、音の波として確実にここにも到達する。 うっかり自分も眠ってしまうわけにはいかないため、音そのものを遮断したのだ。 (たかだか子供の決闘とはいえ、死人を出すわけにはいかぬ) オールド・オスマンは人間としてはダメな男だが、教師としては最上の男だったのだ。 「あ、あいつ、ギーシュを殺しちゃったの!?」 ルイズが震える声で言う。 「どうでしょうね……血は出てないみたいだけど、放っておくのはヤバそうだわ」 「同感」 キュルケとタバサが杖をホワイトスネイクに向けて構える。 「な、何してるの二人とも!?」 「止めるのよ。このまんまじゃ、本当にただ事じゃ済まなくなりそうだもの。 別に彼を殺したりはしないから大丈夫よ」 そう言ってルーンを唱えるキュルケ。 タバサの方はすでにルーンを唱え終わっており、その目の前に7、8本のツララが形成されている最中だった。 そして、タバサがツララをホワイトスネイクに向けて飛ばそうとした瞬間、その鐘の音は響いた。 決して大きな音ではなく、しかし心の奥底にまで浸み渡る音。 その音がタバサの体から力を奪っていった。 (こ、これ、は……) 薄れゆく意識の中で、タバサは音の正体を理解した。 (これは、『眠りの鐘』) その眠りの鐘の影響は、ホワイトスネイクにも及んだ。 「コノ音……何、ダ……コレハ?」 全身から力が抜けていき、激しい睡魔がホワイトスネイクを襲った。 「第、三者ノ……介入カ? アルイハ……ダガ……!」 ホワイトスネイクは、ギーシュの額から貫手を引き抜いた。 引き抜いた指に挟まれていたのは輝く二枚のDISC。 貴重な戦利品だ。 滅多なことでは手放せない。 こんな、わけのわからない攻撃なんかのためには、決して。 「コレハ……回収……スル。カ、確、実、ニ……」 最後のパワーを振り絞って体内にDISCを収納すると、ホワイトスネイクは煙のように姿を消した。 To Be Continued...
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学院! メイジとメイド その② 四系統のどれにも目覚めていない落ちこぼれ。 ドット、ライン、トライアングル、スクウェアというランクのうち、 一番下のドットにすら及ばない、魔法は使えるけど必ず失敗するメイジ。 成功率ゼロ。だからゼロのルイズ。 そして――メイジの実力は召喚される使い魔にも反映されるらしい。 それを聞いた承太郎は約五十日の旅で得た『自信』ってやつがぶっ壊れそうだった。 「ちょっと! 私の使い魔と何してんのよ!」 授業終了後、承太郎がキュルケからルイズの話を聞いていると、 ルイズ本人が不機嫌ですと顔に書いてやってきた。 「別にー、あんたの二つ名を説明して上げてただけよ」 「よ、余計な事しないで! こいつは私の使い魔なの! こいつに物事を教えるのは私だし、面倒を見るのも私なんだから!」 「プッ、アッハッハッ。その使い魔に面倒見てもらおうとしたのは、 いったいどこのどちら様かしら? ゼロのルイズ」 「ど、どういう意味よ?」 「この平民に、下着の洗濯を頼んだんですってね」 「それが何よ。下僕がいるんだから身の回りの世話を任せるのは当然でしょ?」 「でも、若い女が、若い男に、下着まで世話をさせるだなんて……はしたないわ」 「ははは、はしたないー!? それをあんたが言うの!?」 「いくら私でも、好きでもない男相手に下着を見せても触らせないわ」 見せるのはいいのか、と承太郎は呆れた。 この世界の貴族というのはとことん慎みというものとは無縁らしい。 「これはもう貴族とか平民とか関係なく、レディとしての常識よ常識」 「あああ、あんた! キュルケと朝何か話してたと思ってたら……!」 ルイズの矛先が承太郎に向けられる。 「……言ったはずだぜ。寮や学院の事を質問していたと」 「それが、何で私の命令をキュルケに報告してんのよ!」 「…………」 承太郎が黙っていると、キュルケが口出しをしてきた。 「こいつが『洗濯は自分でするのか?』なんて私に訊いてきたから、 ちょっと事情を訊ねてみただけよ。 まさかあんたが使い魔に下着を見せびらかしてるなんてねぇ」 「ちちち、違うわよ! それに、こいつ使い魔だもの! 平民だとか男だとか以前に、使い魔なの! だからいいの!」 「平民にも使い魔にも性別くらいあってよ? ルイズったら殿方にモテないからって感覚狂ってるんじゃない?」 「あんたみたいな節操なしと一緒にしないで!」 「負け犬の遠吠えがうるさいわね。 食事に遅れるから私はそろそろ行くわよ」 キュルケはルイズいじめに飽きたのか、それとも単純にお腹が空いたのか、 喧嘩を打ち切ってルイズの横を颯爽と通り過ぎ、くるりと振り向き承太郎を見る。 「ルイズの使い魔が嫌になったら、私のところにいらっしゃい。 あんた顔がいいから、特別に私の召使にして上げてもよくってよ」 「……悪いが遠慮しとくぜ」 「あ、そう。じゃあね」 所詮平民とキュルケも思っているらしく、 承太郎に断られてもたいして気に留めず教室を立ち去った。 そして残されたルイズは、承太郎の頬にビンタしようとして、 身長が届かずジャンプして飛び掛り、承太郎がヒョイと避けて、ズデン。 前のめりに地面に突っ伏した。 「……大丈夫か?」 「何で避けるのよ!?」 ルイズは理不尽に怒鳴った。 結局ルイズは器用に避ける承太郎を殴るのをあきらめ、教室を出た。 食堂への道中、ルイズは承太郎の表情の微妙な違和感に気づく。 「なに不機嫌そうな顔してんのよ」 キュルケにからかわれて不機嫌全開のルイズに鏡を見せてやりたいと思いつつ、 承太郎は自分が不機嫌なのを否定せずに冷たい口調で言った。 「てめー……メイジだの貴族だのと威張ってたくせに魔法を使えねーのか」 「ちち、違うわよ! 魔法は使えるけど……し、失敗するだけだもん!」 「それは使えねーのと同じだぜ。 貴族ってのは魔法が使えなくても口先だけで威張れるもんなのか?」 「うっ……」 「威張るだけの能無し野郎は俺の故郷にもいたが、はっきり言って気に食わねぇ。 てめーが女じゃなかったら気合入れてやってるところだぜ」 「ののの、能無しですって?」 「貴族だメイジだというだけで平民を見下すような奴は……俺が貴族として認めねぇ」 承太郎の言っている事は、ルイズにとって痛いほど解る事だった。 自分はメイジなのに、貴族なのに、魔法が使えない。 だから学校のみんなから認められない。 だから家族から認められない。 だからゼロと呼ばれる。 それでも精いっぱい貴族として恥じない生き方をしてきた。 貴族の誇りを守ろうと、一生懸命。 けれど、その努力はやはり……誰からも認められない。 それはとても悲しくて、さみしくて、苦しくて、悔しかった。 平民に、それも己の使い魔から自分の一番のコンプレックスを突かれ、 ルイズは泣きそうになり……でも貴族としての意地が、それをこらえさせて……。 「ジョータロー! あんた、ご飯抜き!」 こんな事しか言い返せない自分が、とても情けなかった。 ルイズが承太郎に叫んだ場所は、ちょうど食堂の前だった。 ルイズは逃げるように食堂に飛び込んでいく。 そして承太郎は……食堂に入らなくては昼食を盗めないという事で溜め息をついた。 「あの……どうかなさいました?」 そんな承太郎に声がかけられる。振り向くとメイドの格好をした素朴な少女の姿。 彼女の黒髪を見て、そういえば黒髪の人間はこっちの世界じゃあまり見かけないなと思った。 「いや……何でもねえ」 「あなた、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう平民の……」 平民という言い草に承太郎は『またか』と軽く落胆した。 「……おめーも魔法使いなのか?」 「いえ、私は違います。あなたと同じ平民です。 貴族の方々をお世話するために、ここでご奉仕させていただいてるんです」 「……そうか」 「私はシエスタっていいます。あなたは?」 「承太郎だ」 「変わったお名前ですね……。それで、ジョータローさん。 こんな所でどうしたんです? 本当に何もお困りでないんですか?」 「……実を言うと威張りちらした貴族様に飯を抜かれちまってな」 「まあ! それはおつらいでしょう、こちらにいらしてください」 承太郎はこっちに来て初めて出会った貴族以外の人間、 平民のシエスタの対応を見て、ようやくまともな人間が見つかったと思った。 戻る 目次 続く
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ドアを開きルイズが部屋に入る。私もそれに続き部屋に入り机の上にデルフと荷物を置き、既に定位置に成りつつある椅子に深々と腰掛ける。それにしても疲れたな。 帽子をとる手間すら面倒臭い。まあ、あのお祭り騒ぎの人混みの中を歩き回ったのだ。当然の結果といえよう。ルイズも見る限り、疲れてベッドの上に寝転んでいる。 まあ、ここまで疲れたのにはそれなりにワケがあるのだが、 「ほんとに疲れたわ。ちょっと歩きすぎたわね」 「……お前が迷うからだろ」 「うっ…………」 そう、道に迷ったのだ。ルイズが、知っているはずの街で、迷ったのである。私はルイズの後ろを追っていたので当然迷った。巻き込まれたと言ってもいい。 しかし、普通知ってる街で迷うか?迷う奴は幼子かボケた老人だけだ。 「し、仕方ないじゃない!その、街なんて細かに場所を覚えるほど行ってないし、人混みが多くて場所が判断しづらかったし、お祭り騒ぎで街の印象も変わってたし……」 「お前が余所見ばかりしていたからだろ?それに、迷ったことを一時間も誤魔化すか?」 「そそ、それは…」 「迷ったなら場所を人に聞けばいいのに、それを頑なに拒んでさらに二時間迷ったな」 「そそそ、それは……、そう!人に聞くなんて逃げたのと同じよ!貴族は困難に正面から立ち向かうものよ!」 「…………」 「…………」 私が黙るとルイズも黙り口を開かなくなる。そして空気に耐えられなくなったのか私から視線を逸らし、傍らに置いてあった祈祷書を開き眺め始めた。やれやれだ。 それにしても、なんともセンスの無い言い訳だったな。センスがあっても所詮言い訳だが。……言い訳にセンスを求めること事態が間違いだな。 「ねえ、ヨシカゲ」 不意にルイズが私に話しかけてくる。口調からして、今思いついた、みたいな感じだ。 「どうした?」 「あんたのボロ剣貸してくれない?」 「……なんだと?」 今こいつは何って言った? 「だから、机に乗せてるそのボロ剣をちょっと貸してほしいのよ」 何を言っているんだこの馬鹿は?デルフがボロ剣だと?どうやらルイズの目は相当な節穴のようだ。ルイズがボロに見えるとは。あの光り輝く刀身を見たこと無いのか!? ……考えてみると見せたことが無いな。見せようとも思わないし。私だけが知っていればいいことだ。だが、デルフをボロと言われるのはあまり気分がいいものではない。 「どうして『デルフリンガー』を貸してほしいんだ?」 「そのボロ剣、アルビオンが攻めてきたときに、わたしに祈祷書のページをめくれって言ったじゃない?それに『イクスプロージョン』のことも知ってたわ。 つまり、それは虚無のことを知ってるってことでしょ?だから、虚無について知ってることを話してもらおうと思って」 こいつ、私がわざわざ『デルフリンガー』と強調して言ったのに、普通にボロ剣って言いやがって…… しかし、ルイズに言われて思い出したが、あのときデルフは何故か祈祷書のことや『イクスプロージョン』のことを知っていた。それは一体どうしてだ? デルフ、『デルフリンガー』。曰く、『ガンダールヴ』の左腕。曰く、一応『伝説』。推測、『ガンダールヴ』が左腕の武器。これが自分が知っているデルフの重要情報だ。 ん?ここまで思い出して、ふと気がつく。『ガンダールヴ』は伝説の『使い魔』だ。始祖ブリミルの使い魔であらゆる武器を使いこなしたらしい。 それで、始祖『ブリミル』は『始祖の祈祷書』に『虚無』のことについて記した張本人だ。そしてブリミル自身『虚無』が使えた。 ここまで思い出すと、あとはすぐにわかる。『デルフリンガー』と『ガンダールヴ』と『ブリミル』、こいつらは同じ時代に存在してた。 『ブリミル』と『ガンダールヴ』は主従関係だったのだから当然一緒にいたはず。 そして『デルフリンガー』は『ガンダールヴ』の武器なのだから『ガンダールヴ』と共にあり、『ブリミル』の近くにいたはずだ。 『ブリミル』は『ガンダールヴ』の前で虚無を使ったことがあるはずで、『デルフリンガー』はそれを直接見ていた。 だからデルフは『虚無』のことを知っているし、祈祷書のことを知っている…… きっとこれは限りなく真実に近いはずの考えだ。そう考えないとデルフが『虚無』や『始祖の祈祷書』について知っているはずがないんだからな。 もし、ルイズにデルフを貸せばルイズはデルフに虚無について確実に聞くだろう。実際に虚無について知っていることを話してもらう、とか言ってるしな。 だが、それは色々まずいんじゃないか?知識は力だ。つまり、ルイズに『虚無』の知識が増えればさらに力が強くなるということだ。 ルイズが強くなれば強くなるほど、いざというときルイズを殺せる可能性が低くなる。それはなんとしてでも避けたい。 「どうしたの?いきなり黙っちゃって」 「いや、なんでもない」 とりあえず、ルイズにデルフを渡さない方法、あるいは渡しても意味が無い方法は無いのだろうか?デルフに直接ルイズに『虚無』のことを話すなといえば早いだろう。 そうすれば渡しても問題ない。きっとデルフは喋らないだろうからな。しかし、ルイズが見ている手前、そんなことを言うわけにはいかない。 ペンダントのときのように爆破するか?論外だ。私がデルフを爆破するなんて、こんな状況じゃありえない。 今この瞬間に、誰かがこの部屋に入ってきてくれればその間に何とかできる自信はあるのだが、このタイミングで都合よく誰かが来るなんてことは期待できない。 クソッ!なにか、なにかいい案は!? 「ヨシカゲ?」 そうだ! 「別に貸しても構わないが喋るかどうか定かじゃないぞ」 「え?どういうこと?」 そう言ってデルフを手に取る。 「どうしてだかアルビオンが攻めてきたあの時以来、殆んど喋らなくなってしまったんだ。最近じゃあ抜いても一言喋るかどうかだ」 これは一種の賭けだ。こうしてデルフに聞こえるように、デルフは最近喋らないということを強調して私が喋らないことを望んでいることを暗に伝えるのだ。 デルフを信頼しているからこそのこの賭け。そしてこれはある意味、私とデルフの絆がどれだけのものか確かめるチャンスでもある。 デルフが私を少しでも理解していれば、しっかりと意図を汲んで喋らないはずで、喋るということは私を少しも理解していないということだ。 ルイズにデルフを渡しながら、心の中で願う。デルフが何も喋りませんようにと。しっかりと私の意図を理解しているようにと。私を理解しているようにと。 そして、ルイズがデルフを喋れる程度に引き抜いた。その刀身にはしっかり錆が浮かんでいる。 「ボロ剣、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」 「…………」 「ちょっと、なんか言いなさいよ」 「…………」 「ねえ、由緒正しい貴族のわたしが、あんたみたいなボロ剣に尋ねてるのよ。なんか言いなさいよ!」 「…………」 この光景を見て、私は安堵した。デルフにはちゃんと私の意図が伝わっていたのだ。そして嬉しかった。 デルフは私のことをどれほどかはわからないが理解してくれているとわかったから。やはりデルフ以上の相棒はいないな。 というより、ボロ剣呼ばわりするルイズに、私の相棒と喋る価値は無い。しかし、喋らないデルフってのはどうしてこう違和感があるのだろうか? 剣は喋らなくて普通なんだがな。 「いい加減喋りなさいよ!喋らないと『虚無』で溶かすわ!誓ってあんたを溶かすわよ!」 ……なんだとー!?デルフを溶かす!?冗談じゃない! 「おい、ルイズ。それは、私の剣だ。勝手に溶かされては困る!それに最近は喋らないとあらかじめ言っておいただろ!」 「喋らないだけで喋れないわけじゃないんでしょ!それってこっちを無視してるってことじゃない!」 「だからと溶かすのか?お前、溶かしたら別の剣買ってくれるのか?もうお小遣いは無いんだろ?それに女王様から言われただろ。みだりに虚無を使うなって」 「う~~~~~!」 まったく、気に入らないから壊すってガキかよ。 とにかく、こういったことが二度とないように、適当にそれっぽいことを言って、ルイズをうまく丸め込まなければならない。 「お前は何になりたいって言ってた?立派な貴族だろ?お前が夢見る立派な貴族はみんな冷静さを欠いているのか?そんなわけ無いだろ」 「…………」 「冷静じゃないと短絡的な行動をしてしまう。短絡的な行動は後悔に繋がる。それぐらい考えればすぐにわかることだろ?」 このセリフ、過去の自分にも言ってやりたいな。そうすればきっとこの世界なんかに来なくて済んだだろう。 「今回のことは、また喋るようになるまで待てばいいだけの話だ。溶かしたら二度と聞く機会が無くなるぞ。それこそ短絡的な行動だと思わないか?」 「……わかったわよ。わたしだって後悔はしたくないわ」 どうやら無事ルイズを丸め込むことに成功したようだ。見る限り、見事に気持ちがクールダウンしている。それを確認してルイズからデルフを取り上げ、再び机の上に置く。 やれやれ、本当に危なかった。せっかくデルフとの絆も確認できたのに、まさか突然のさよならになりそうになるとは。 「あ、そういえばもう夕食の時間じゃない?」 突然普段の調子に戻ったルイズの言葉に窓の外を見てみる。すっかり日が暮れ暗くなっていた。耳には他の生徒が移動するような音も聞こえる。 「そういえばそうだな」 「行きましょ」 「ああ」 丁度いい。食事を終えたらシエスタのところに行って今日のことを謝っておこう。本当は帰ったらすぐに謝る予定だったんだが、予想外に体力を消耗していたからな。 ルイズが立ち上がり部屋から出る。私はそれを見ながら立ち上がり、机の上のデルフを喋れる程度に抜いた。 「これでよかったのか相棒?」 デルフは抜いた瞬間、いつものように喋りだす。そうだよな。これでこそデルフだ。これがデルフにとっての普通だ。 「ああ、上出来だ」 いつもより少し上機嫌なためか、簡単にデルフを労うことができた。自分でも少し驚きだ。 「しっかしよ~。どうしてあんなことしなくちゃいけねえんだ?普通に喋ってもよかねえか?」 「ダメだ。あれは虚無なんていうありえねー力を使う奴だぞ。完璧に化け物だ。 ただでさえ力を持っているのに、知識が増してこれ以上強くなったら殺さないといけないとき殺せないかもしれない」 「…………」 「いいか。これから先、非常時以外ルイズの前で喋るなよ。絶対だからな。それじゃあ私は食事に行ってくる」 デルフを鞘に収め部屋を出る。少し急いだほうがいいかもしれない。ルイズに遅れたことを怪しまれたら少し厄介だからな。 遅れた理由を聞かれたときの言い訳もあらかじめ考えておくか。そう考えながら私は食堂へと向かっていった。 「いやぁ、こんどの『ガンダールヴ』はどうなってんだ?ちっとやばいような……」